ワンコ

Winnyのワンコのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
5.0
【あなたはレジリエント(resilient)ですか】

この長きにわたる法廷劇の影響で、日本のソフトウェア開発が委縮してしまったのであれば、それは僕たちの国が抱える根本的な問題として、この国のあり様も含めて議論しなくてはならないのではないかと思う。

鈴木おさむさんが、この映画の公開に際し、監督や配給を含めた制作サイド、並びに、すべての俳優たちに対し、勇気があると最大の賛辞を送っていた。

日本の司法に睨まれる可能性もあるからという意味もあるのだろうか。

それほど、この事件は日本の社会のレジリエンス(resilience)の欠如を如実に表しているのではないのか。

最近、「レジリエンス」或いは「レジリエント」という言葉をよく見聞きするようになった。

弾力性や回復力が強いという意味で使われることが多いが、柔軟性があるという意味とは少し異なり、対義語が硬直性ではなく、脆弱性というところから考えても、社会システムを表す言葉として意味があるのは明らかなような気がする。

(以下ネタバレ)

金子さんが、Winnyに対して著作権者の権利を保護できるようなプログラムの変更を加えて改善しようとする行為はレジリエンスなのだが、司法当局が、当時の”現行”の著作権法を考え直さなくてはならくなる云々の言い訳のような発言から考えるに、日本の司法システムが硬直的だと考えられがちじゃないかと思う。

ただ、ここからが本題なのだけれども、重要なのは並行して進行する裏金問題のストーリーだ。

この作品は、この裏金問題とWinnyを巡る京都府警の問題の根っこや本質は同じだと言いたいのだ。

裏金を利用するメリットを手放すことが出来ないという状況と、京都府警が原告になってでも金子さんを訴追しなくてはならない理由。

そこにはいったい何があるのか。

単に流れなのか、思い込みなのか、無知なのか、特定の業界からの突き上げなのか、執着なのか、著作権侵害をいちいち取り締まるのは手間も時間もかかるから蛇口を閉めることが一番なのだという逆説的楽観主義なのか。

組織として考えると、ちょっとしたほころびを修正するどころか、傷口が逆に広がってしまうという結果。

これは硬直的なのではなく、脆弱そのものではないのか。

最近の、放送法を巡る安倍・磯崎も含めた高市早苗に受け継がれた”であろう”あれやこれやもそうだ。

こうした過程を経て、「国境なき記者団(RSF)」による報道の自由に関する国際ランキングで、2022年、180か国中、日本は71位までランクを落としてしまった。

日本の国家システム自体がレジリエントじゃない状況、つまり、脆弱なのではないのか。

どこが民主主義国家だ。

5ちゃんねるに名称を変えた2ちゃんねるもそうだ。

佐藤優氏によると世界的にも稀有な誹謗中傷サイトらしい。

もし、当時の2ちゃんねるの利用者のほとんどが一定のモラリティのもと、Winnyを違法な動画共有や配信などに利用しさえしなければ、2ちゃんねるは世界とは言わないまでも、日本で確固たる市民権を得ることが出来た情報共有サイトになることが出来たのではないのか。

1600万円もの寄付をした2ちゃんねるのユーザーには敬意を表するが、YouTubeやTikTokなどの世界的な動画アプリが席巻していることから考えると、彼らも本当に腑(はらわた)が煮えくり返る思いだろう。

繰り返しになるが、もしWinnyの合法的な利用が広がれば、ある社会学者が言う、5ちゃんねるに蔓延(はびこ)る「冷笑文化」もなかったのかもしれない。

それほど、この事件は分岐点になったのだ。
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