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静かな雨のSugiのレビュー・感想・評価

静かな雨(2020年製作の映画)
3.9
記憶を失ったあの雨の日から数週間後に目覚め、雨上がりを喜ぶこよみだったが、心にまだ「静かな雨」が降り注ぎ続けているのは、実は行助の方だったのかもしれない。

主演2人の演技が特に素晴らしい。
起伏の少ない表情の奥にある感情の変化、過去の経験、悩みや葛藤がそこに、確実に見える。
「ここ、ゆきさんち?」
「雨、上がったんだね」
のシーン、おそらく毎回撮り直しているんだろうけど、全て本当に初めてゆきさんちで眠った後のように見える。その表情全てが初々しくて、毎シーンちゃんと動揺しているように見えた。

「あの子の世界にも私がいて、私の世界にもあの子がいて、でも2つの世界は同じものじゃないからさ。」
こよみ(衛藤美彩)の言葉が刺さった。
物語の文脈的にはたい焼き屋に来た高校生のことを言っているが、それを聞いた行助(仲野太賀)にも心当たりがあるセリフだ。さらに映画の枠組みを超えて、これは現実世界の人と人とのコミュニケーション全般に通ずるものだと思う。

撮影も綺麗で心を惹かれる。純粋なこの世界観に没入できる。光と影の使い方にこだわりを感じるし、それがとても自然。
また録音は音が重要な鍵を握った『ドライブ・マイ・カー』伊豆田さん。
映像と音声が両輪となり「静かな雨」を形作る。
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