チッコーネ

12番目の容疑者のチッコーネのレビュー・感想・評価

12番目の容疑者(2019年製作の映画)
3.5
『テハンノで売春していてバラバラ殺人にあった女子高生、今もテハンノにいる』で配給ビジネスをスタートさせたという韓Indiestory社の作品。
なるほどメジャー映画に比べ低予算なのは伝わるが、セットに安っぽいところはなく、今見るとアンティークでレトロな、1950年代の喫茶インテリアを丁寧に再現。
ゆっくり横移動するカメラなど、撮影にも品がある。
恐らく舞台劇の映画化なのでは、と思わせるが、回想場面もふんだんに取り入れられており、密室の圧迫を感じさせなかった。

脚本は太平洋/朝鮮戦争を経て軍事政権に突入した韓国の、不安定な世が基盤となったサスペンス。
本来、インディ作品に求められるべき硬派な気概に満ちており、浮わついたエンタメ要素は皆無…、現在の韓国映画界が維持している『王道のアティチュード』に胸がすく思いだ。
朝鮮日本兵の徴収役から、赤狩り軍人へ転身した男の内部に蠢く欺瞞と悪行が鋭く告発されており、ラストには「民主化以降も、この男は屍や道連れを増殖させながら、日和見を繰り返すだろう」という不穏な余韻が残る。
また年齢を重ねた登場人物たちは皆、生き残るために清廉でいられなかった過去、後ろ暗さを抱えていた。

冒頭は知名度の高くない役者たちの出番が続くのだが、一様に演技達者なのには驚かされる。
主演のキム・サンギョンも決して『客寄せパンダ』に甘んじぬ仕事ぶり。
ひとつ前の出演作『死体が消えた夜』の刑事役も決して善人でなかったが、本作では慇懃無礼かつサディスティックな憎まれ役ぶりで、タイプキャストを超えた熱演を披露している。