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リスペクトのyuzuのネタバレレビュー・内容・結末

リスペクト(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

映画館でしゃくりあげるくらい泣いて目の奥が痛い状態でこれを書いているので乱文は確定なのだが、観終わってすぐに書きたかったのでよしとします

世界的ミュージシャンの登場前夜-まだ名も無い1人の歌い手だった時代から、ひとつのきっかけからヒットを生み出し一気にスターダムを駆け上がる姿、そして転落と再起。「ボヘミアン・ラプソディ」をはじめ、昨今こうしたスターの伝記的ストーリーが人気を博している。魂を震わせる歌声の裏にある物語は、音楽の効果と相まって多くの人の心を打つからだろう。もちろん「リスペクト」もその例外ではない。「クイーン・オブ・ソウル」の長いキャリアの中でも最もドラマチックな時代に焦点を当て、時を超えて愛される名曲の数々と共に彼女の生き様を振り返る。
私がこの作品を一人でも多くの人に見てほしいと思う理由は、単に幼少期からずっと彼女のファンだからではない。本作をひとことでまとめるのなら、「傷つけられ続けたひとりの女性が、自らの性と才能をのりこなし、"NO"と言えるようになるまでの物語」だからだ。(乗りこなすという表現が的確かは分からないけど)

自らを「真っ当」と信じて疑わない牧師の父は、性暴力の純粋な被害者であるアリサを抑圧し、過度な束縛をもって「教育」する。この二重のトラウマがその後長い間彼女を苦しめる過程が、見ていて本当に辛い。信仰の名の下に父が行為を正当化しているからこそ、彼女は余計に自責し続けることになり、意志をうまく出せないままに成長してしまう。しかし彼女はそれに抗っていく。ゆっくりと、しかし着実に。だからすごいんだよねえ〜… 抗えば抗うほど、自分の意志を出せば出すほど成功に近づいていく描写から、彼女がいかに才能ある人だったかが伝わる。そしてついに、常態化していた夫の暴力へ"NO!!"と声をあげる。怯むことなく相手を見据えるジェニファー・ハドソンの演技を通して、そしてその後の"Think"の一節を通して、観客はアリサの歌声に宿る強さの意味を体感していく。

しかし、植え付けられた傷はそう簡単に癒えない。孤独と焦燥感に追い詰められると、周囲が差し伸べる手を拒絶してしまう。こっから全力でネタバレだけど(いやもうすでにネタバレしまくりだけど)、何よりこの「一人でどんどん落ちるフェーズ」から立ち直り、さらに自身のいろんな意味で"ルーツ"の教会音楽へと回帰するのが本当に胸に迫る。先にこっちのドキュメンタリーを見ていたので、その裏側でこんなことが起きていたとは…と噛み締めることができた。(ぜひ「アメイジング・グレイス」もみてね) 随所で登場するシスターフッドの描写もグッとくる。

「強い女性」と「エンパワメント」という言葉が時にひとり歩きする今、「強くない私はだめなのかな」と落ち込んでしまう人ももしかしたらいるのかもしれない。そんな人こそ、ぜひ観て、聴いて欲しい。彼女の歌には、それぞれの思いを勝手に乗せられるだけの懐の深さがある。だからこそ、永遠の「クイーン・オブ・ソウル」で居続けるんだなあ。

追記
もちろん多分に演出の力があると思います。だからこそ映画、なわけだしね
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