KyokoK

リスペクトのKyokoKのネタバレレビュー・内容・結末

リスペクト(2021年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

私にとっては"虫(Demon)"がキーワードになった映画だった。
歌唱や音楽そのもののシーンは良かったが、この"虫"に関する人間模様の描写はなかなかキツいものがあった。

両親の離婚(原因は父親の暴力)、離れて暮らす最愛の母の死、12歳で性的暴行からの出産(大人になったシーンで息子が二人はいたから、その後も暴行なり非行なりで出産しているのだろう)。
それを無かったかのように「アレサは真っ直ぐな家庭で真っ直ぐに育った」と語る父親。少しでも反対意見を言うと「"虫"が出たか」と突き離される。意に沿わないことがあると大きな声を出し、縛り付けようとする。
そんな父から逃れて結婚したマネジャーのテッドは、浮気者で嘘つき。「俺にも"虫"がいる、一緒に闘おう」と語り、アレサも一度は同意するが、嫉妬や金銭問題から暴力を受け、離別する。
キング牧師の死、ヤングリーダーの投獄などを経てメディア露出に精を出し、無理が祟ったアレサに、「よかれと思って」仕事をセーブさせようとする後のパートナーや妹たち。これに激昂したアレサに、彼らは「"虫"が出ると話し合いすらできない」と言い放つ。
ここまでの"虫"は、彼女の幼少期のトラウマと言い換えることができるのではないかと思う。少しずつ蝕まれたアレサは、ついにアルコール中毒に陥ってしまう。どん底に落ちた彼女を救ったのは、母の面影、そして神だった。そこで流れるのがアメイジング・グレイス。
その後の教会で、幼い頃から見守ってくれていた聖歌隊の彼のセリフが印象的だった。
「君は最初の妊娠に罪悪感を感じているね。いいかい、"虫"なんていないんだ。神は見ていてくれる。ここは教会で、安全な場所だ。」
この言葉で、彼女ははじめて彼女になれたんじゃないだろうか。
KyokoK

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