Kenjo

猿楽町で会いましょうのKenjoのレビュー・感想・評価

猿楽町で会いましょう(2019年製作の映画)
4.3
「白いお肉が美味しい焼肉屋さんはいい店なんだよ」

カメラマンとモデルが出会う恋愛映画かと思いきや、東京の黒い部分が盛りだくさんなとてもディープな映画。

カメラマンの男性が主人公ということで、自分もカメラマンをしてる故に気になって見に行った。

カメラマンとして売れたい、雑誌の表紙を撮るようなカメラマンになりたいと夢見る小山田と、新潟の田舎から上京してきてモデルや女優として売れていきたいユカの2人が主人公。

第一章でユカと小山田との出会いを描き、第二章で過去に遡りユカの上京してからの話が描かれるのだが、その伏線回収が1番面白いシーンだった。(ユカの性格や背景が描かれる)

この映画のテーマは「アイデンティティとは」という形になりそう。
ユカは面接で「あなたはどういう人間ですか?」という質問をされ、口籠ってしまう。
ユカの会話や発言には、"自分"というものが存在していない。自分の気持ちや、自分が考えたことではなく、知り合いや別の男から聞いたことを話す。それ自体が悪いことだとは思わないが、あたかも自分の言葉ですよという風に発言するやり方がずるいなあーと思ってしまう。でも、その処世術こそがユカの武器なんだろうなとも思う。

まあ世の中、他人からの影響を受けずに育ってきた人間なんていないから、どの人も高度な他人のコピーでしかない。そのへんを揶揄してると考えると興味深い。

趣味が合う女の子が、実は彼氏の影響で男っぽい趣味を持ってたみたいなことはよくあることやと思うけど、裏側を知らない限りはただの趣味の合う女の子でしかない。この映画によって、ユカの私生活は赤裸々に映像として観客に見せられていて、それを見た観客たちは、ユカは悪い、最悪だ、自分を持ってないって言っちゃうかもしれない。でも、それはどの人との関係も1番最善な関係でありたいという思いからやってることだから、しょうがないのかなと思う。

この物語って実は東京じゃないとできないよねー。
田舎でこんなことしちゃうと知り合い経由とかですぐ嘘がバレて、噂が広がりまともに生きていけなくなりそう。東京という都市構造がそれを許してるし、逆に都市がそのような人間を量産してると言ってもいいかも。
よくいうビジネスの言説に、「労働者を搾取してるのは経営者じゃなく、都市だ」というものがあるが、これはその通りだと思ってる。お金を稼ぐためには労働者を搾取し、価格競争をしなきゃいけない。それは都市という大きな市場にいるからで、田舎で商売するなら持続可能性を重視する必要がある。
これと同じでユカがこんな生き方をすることになったのは大都市の中で生きてると、そうせざるを得なかったというのが大きいと思う。

あとはユカの男子のレベルによって態度を変える感じがリアルすぎて胸えぐるよねー。あの古着屋のアルバイトくんがいなけりゃただの八方美人で、嫌われることを嫌う女の子だったのに、あの子がいるだけで狡さを感じてしまう。

でもちゃんとユカのバックグラウンドを説明してくれたのはよかったなー。浮気や嘘も処世術であり、過去のトラウマからそのような技術を身につけたというところまで説明してくれて、やっとユカにも同情できた。子供は親を選べないしどうしようもない。

この物語にいる人間、完璧な人間は1人もいなくて、それが原因で問題を起こしたりしてるんやけど、実はどの人にも共感できるところがあるのが面白い。
「この人は素晴らしいからこういうことを成し遂げた!」って映画もいいけど、「人間ってこういう弱さがあるけど強く生きてるよねーみんなも頑張っていこうねー」みたいな映画も救われる人は多いと思うなー。

今日も生きてるだけでえらい!くらいのテンションで生きていきましょう
Kenjo

Kenjo