ノラネコの呑んで観るシネマ

夏、至るころのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

夏、至るころ(2020年製作の映画)
4.1
福岡県の田川を舞台に、幸せの意味を探す男子高校生の話。
池田エライザ監督のデビュー作なんだけど、これがなかなかよく考えられた一本だった。
高校三年の夏、皆は幸せを求めて進路を決めるが、おおらかな家族に育った主人公は、幸せすぎて幸せの意味を知らない。
幼馴染は大学受験のため、一緒にやってきた和太鼓を夏祭り前に辞めてしまう。
東京からやって来た女の子は、プロにまでなった歌手の仕事を、不幸になるからと辞めたいという。
主人公には、なぜ幸せを求めて大好きなことを諦める必要があるのか分からないのだ。
田川には古い大きな煙突が二本あり、これが重なって一本に見えると、幸せになれるという都市伝説があるらしい。
幼馴染たちは、幸せを求めるには何かを捨てて一人(一本)にならなきゃならないと思い込んでいるが、一見して一人に見えたとしても、心は重なった二本煙突の様に寄り添える。
主人公は疑問を持っているだけで、基本の部分は最後まで変わらず、主人公の周りの人々が変化してゆく。
しかし登場人物たちは悩みを抱えているが、よくある青春映画みたいに深刻に閉塞してる様には見えない。
これは若い作者自身が主人公みたいにフリーダムな人で、あんまり閉塞を感じたことがないからじゃないかな。
その辺りの感覚を含め、いい意味で若さを感じる青春映画の佳作。
いずれにしても、初監督でこれなら地力は十分。
次回作を期待したい。