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草間彌生∞INFINITYの前向進のネタバレレビュー・内容・結末

草間彌生∞INFINITY(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

  「草間彌生♾infinity」というタイトルに軽さを感じてしまった自分が恥ずかしい。確かに、原題の"kusama:infinity"に比べると日本語と英語を合わせ、さらに♾の絵文字まで付いている邦題タイトルに小っ恥ずかしさを感じずにはいられない。しかし、infinityという言葉は彼女の作品にある宇宙観、そして彼女の変わらない精神の表れである以上、タイトルに欠かせない言葉であったと思う。
    本作品では、現代最も成功している現代アーティストとして草間彌生を紹介していた。そして、彼女の歩んだ道をパッチワークのように写真、そして時代ごとの映像を組み合わせて構成し、その上から主に彼女を取り巻いたアメリカ人によるインタビューを重ねることによって描いている。写真や映像として明るさなどから草間の心情を描くのではなく、あくまで音楽を中心に表現しているところが映像として印象に残った。
    私は、この作品が今年、日本ではない国で作られたことには大きな意味があると感じる。日本では今年、SNSやニュースで大変議論を呼んだ「愛知トリエンナーレ」や、流行語対象にもノミネートされている#kutooなどの女性の社会進出における残された性差別の問題など芸術や女性の立場に関する様々な社会問題が起きた。これらの問題は、1957年アメリカに渡った草間彌生の画家としての飛躍を阻んだ性差別や人種差別と多く重なるものがある。例えば、作内でも紹介されている1966年のヴェネチア・ビエンナーレ。ゲリラ参加し、着物を脱ぎながら対抗しながらもその強い思想から強制退場させられた草間の姿は、人々のみならず県からも大きな批判や脅しをかけられ、一度は中止に追い込まれた「愛知トリエンナーレ」における「表現の不自由展」に通ずるものがある。また、草間による展示場のインスタレーションの革新的な工夫や、ソフトスカルプチャーの概念がアンディーウォーホルなど多くのアーティストに影響したのにもかかわらず、そのオリジナルである彼女が、女性そして日本人であるために評価されなかった背景も、現代日本における女性の社会進出問題と共通点が多くある。このように、彼女の50年前の苦しみは、今の日本にまだ強く残っているのではないだろうか。
    本作品では最後に草間彌生は、SNSの影響もあり現代で最も活躍する現代アーティストになったとポジティブに述べている。彼女は、アメリカから日本に一度帰国した際、日本の芸術レベルの低さを感じたと言っている。数々の差別や偏見を超え、結果的に日本でも成功した彼女は今の日本の社会、そして日本の芸術に対する立場をどう見ているのか、非常に気になった。
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