梅澤篤史シナリオライター

犬王の梅澤篤史シナリオライターのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.5
https://stand.fm/episodes/6474accbaf201845bdecba69
【あらすじ】
時は室町。新たな能楽を広めるお話。壇ノ浦で平家の遺物を拾っている一族のトモナ。壇ノ浦に突然やってきた役人二人に海底に沈んだ遺物の捜索を頼まれる。
偶然にもその遺物の在り処を知っていたトモナは、父と男二人とその場所へ向かう。
なんともあっさり見つかった刀を鞘から抜くと、突然光を失ったトモナ。父の名を呼ぶが、一向に返事がない。なんと父の体は、刀を鞘から抜いた衝撃で真っ二つになっていたのだ。
一族の親子が、海に連れて行かれたかと思えば、一人は死に、子どもは『目死(めじ)』になり戻ってきた。一族の恨みがふつふつと湧き上がった。
トモナは、父が殺された理由と、自分の目を奪われた理由を探しに旅に出る。
そこで出逢った盲目の琵琶弾きに感銘を受け、自分も琵琶の稽古を始めるようになると、ある人物に出逢う。
その名は『犬王(いぬおう)』
異形のその姿は、人々を怯えさせた。
だが、犬王は自身の姿にコンプレックスなどなかった。人とは違うことを自信に能楽を真似て、踊りや表現を覚えるのだった。
そしてトモナと犬王は、室町時代にムーブメントを起こす。古い能楽を捨て去り、新しい能楽で犬王の物語を語る。


【低評価】
音楽が単調だったと思うが、伝えたいことは音ではなくメッセージだと思うため、なんとも言えない。
だが、観ている人の事を考えると、ここで離脱する人は多いかも。

【高評価】
ストーリーの展開が凄く良い。目で追いやすい映像と音。盲目であることを有効的に活用している脚本。
室町時代のまったく伝えられてこなかった犬王という存在を、存分に華やかにした設定。
どれをとっても最高だった。

【感想】
室町時代の『犬王』
実在した人物らしいが、ほとんど記録が残っていない。それだけでなく彼の音楽すらも残っていないらしい。では、どこから『犬王』の物語が伝えられたかと言うと、彼のファンたちの、今で言うファンブログのような場所で伝えられ続けたそうなのだ。
室町時代当時、犬王には熱狂的なファンがいたからこそ、歴史から抹消されても残る。そんなインパクトのある人間だったのだと感じる。
演出は、室町時代に合わぬロックだが、犬王という存在が消されてしまう世界。もしかしたら、犬王とトモナたちは本当にロックサウンドで演奏していたのかもしれない。
それにあのド派手な演出、あれすらも本当にあったかもしれない。

ここの創造力を全面に出した作品は、なによりも美しく、アニメーション映画らしかった。
作者の『かもしれない』が、ここまで華々しいと、疑いよりも歓喜が勝つ。

能楽とは、歌う新聞のようで、人々が昔からゴシップ好きなのがよく分かる。