そうですふぎみやさんです

生きるのそうですふぎみやさんですのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
3.7
忙しい、まったく忙しい。しかしこの男は本当は何もしていない。この椅子を守る以外のことは。
そんな少しドキッとするナレーションから始まる、30年死んだように仕事をしてきた男が病をきっかけに『生きる』ことを考え始めるお話。

志村喬のコミュ障を憑依させた演技が凄い。
モノクロの中で爛と輝く無垢な瞳。
観てる分には良いけど、実際あの挙動不審とギョロッとした瞳で迫られたらかなりコワイと思う。
自分の考えなんて他人には中々伝わらない。ゆえに渡辺のように真面目だけど口下手な人は噂や憶測で誤解されやすく、お役所の薄っぺらい人たちが美味しいところをかっさらう。
そんな渡辺を理解してくれる人がいたのは救い。本当に良かった。

渡辺がはじめて『生きて』作り出したモノ。そりゃ楽しげに歌ってしまうよな。寒さなど感じず、完成した喜びで穏やかに逝ったんだろうな。
ラストの公園から橋を見上げるショット、見切れた揺れるブランコには今も彼が乗っているかのようでなんとも温かい気持ちにさせてくれる。