魔女見習い

ソウルフル・ワールドの魔女見習いのレビュー・感想・評価

ソウルフル・ワールド(2020年製作の映画)
4.5
「目標に向かって頑張ってるんだね」「行動力すごい」「将来はどうするの?」
勉強でも仕事でも、何かしら理由があって海外に住んでいると、よく言われる。いや、別に何処に居ようが関係なく、ただ生きているだけで周りはそう言ってくる。わたしも誰かに対して無意識の内に言っているんだろう。

美術の勉強をするためにわざわざ海外に出た。これはわたしの事実ではあるが、真実かと聞かれると半分正解で半分間違い。
アーティストになる為に美術の学校に通って勉強している。これはもう事実ですらない。
自分が美術の学校に通っていたり、ものづくりが好きな友人に囲まれていると、アーティストになる為に生きてきた、絵を描く為に生きてきたという人が沢山いる。あぁこういう人たちが作家になるんだな、と思うと同時に、なんでわたしにはそれがないんだろう?とずっと悩んでいた。それこそ22番みたいに。そしてそれが無いことを許してくれるほど世の中は優しくない。

絵を描くことは好きだけど、それを自分のものだと思ったことはない(いや昔はあったかも?)。何よりも一番好きか?と聞かれても首を傾げてしまう。
そんな風に曖昧に生きていると、ふとした瞬間に「わたしには人生が無い」という気持ちに陥ることがある。他の人はみんな自分の人生があるのに、わたしにはない。
人生も無い、何も作れない、役に立たない、もう死んだ方がいいのでは?いや、死ぬ価値すら無い?
こんな自戒の渦に巻き込まれて溺れて、もうだめだぁと半ば諦めていると、いつも"ただの生活"が助け舟を出してくれる。狭い寮の部屋の窓から見えるお月様とか、ゲームの実況が面白かった事とか、スーパーで好きなお菓子が安売りされてた事とか、子どもの頃のテーマパークからの帰り道の高速道路とか。
わたしが一番好きなのは芸術でも文化でもなく生活。圧倒的に普遍的なもの。特別より普通が美しい。

何気ない毎日を大切に生きようというメッセージを受け取ったというよりは、生活という言葉の持つ意味や役割について再思考させられたし、観た後はすこし息がしやすくなった、気がする。そんな映画。ピクサーすげえわ。
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