グラッデン

OVER TIME ~新生・川崎ブレイブサンダース、知られざる物語~のグラッデンのレビュー・感想・評価

3.7
プロバスケットボールクラブ・川崎ブレイブサンダースの激闘の足跡を辿るドキュメンタリー作品。
川崎は、本年からチームの運営母体が東芝からDeNAに移管。丁度、横浜DeNAベイスターズでもドキュメンタリーシリーズを制作し続けており、ノウハウを活かして制作されたものと想定される。

通常のドキュメンタリー作品と異なり、スポーツドキュメントは、脚色を加えて空気を作ることができるが、結果という現実に抗うことができない。「Bリーグ初の長編ドキュメンタリー作品」として銘打たれた本作においても、結果として厳しい現実を突きつける内容となった。

Bリーグ3年目を迎えた川崎ブレイブサンダースは、昨季ファイナルを戦ったアルバルク東京・千葉ジェッツふなばしのいる東地区から中地区に移ったこともあり、2季ぶりの地区優勝、そしてリーグ初優勝の期待がかかるシーズンであった。しかし、結果は天皇杯ベスト8、リーグ戦は中地区2位(PO初戦敗退)という悔しい思いが残る結果に終わった。

自分自身、実際に試合観戦をしていて、過去にない連敗、今まで勝つことができた相手に敗戦を喫する等、シーズンを通じて上手くいかない状況が続いただけに、本作の全貌が明らかになった時、戸惑い・不安の方が先行した。「何を伝えたいのか?」という意味合いが見えてこなかったからだ。
しかし、鑑賞を終えて、輝かしい成績を讃える内容ではなく、苦しいシーズンに焦点を当てた内容だったからこそ焦り・不安を含めた偽らざる感情を聞くことができたことは良かったと思う。

チームだけでなく、自身の状態も良くなかった主将・篠山竜青の言葉は、明るい口調の裏腹に打開策を見出せない不安を感じ取ることができた。プロ選手、そして主将だからこそ、何とかしなければならないという責任感が滲み出てきた内容でもある。
シーズン中に負傷し、復帰を目指して奮闘した日本代表・辻直人も同じである。大黒柱と言える選手たちもまた、それぞれに苦しんだシーズンであることを内側から知ることができたのは、本作のようなドキュメンタリーだから出来たことだと思う。

また、印象に残ったのは、日本代表としても活躍するニック・ファジーカスの言葉だ。チーム状態が上がらない中、ミーティングで「自分たちの強みがわからなくなっている」と述べていた。強いチームは勝ち方を知っている、自分たちはそれを見失っていることを説いた。
彼の発言は、自分を含めた多くの川崎ブースターが感じていたことだと思う。地区優勝、リーグファイナルに進出した初年度に見せた勝負どころを抑え、勝ち切る川崎の強さが見えなくなっていたからだ。

他にも、篠山竜青がシーズン前に語っていたシーズンの鍵となる戦い方、ヘッドコーチ・北卓也、アシスタントコーチ・佐藤賢治(来季はHC昇格)が控え選手たちにかけた言葉もそうだが、観戦者・ファンが感じていることなど、当事者たちも理解し、言語化できていることに気づかされる。それでもなお、改善には時間がかかるわけだから、スポーツの世界は難しいと再認識させられた。

一方、こうした厳しい結果を受け止めるのであれば、個人的には地区優勝を見届け、そしてPOで惨敗した後も映して欲しかった。意図せずしてHC代行も務めた佐藤ACがHCに就任することになり、そこまでに至る出来事を描いて欲しかった。作品の幕切れとしてはイマイチ不完全燃焼に終わったことが勿体なく感じた。