ユウサク

クイーン&スリムのユウサクのレビュー・感想・評価

クイーン&スリム(2019年製作の映画)
3.5
劇中でも出てくるし言いたくなるのはわからなくもないけどただスリリングな体験がしたかったボニー&クライドとこの二人は真逆の「とにかく厄介ごとは避けたい」アフリカ系アメリカ人なわけで、あんまりその言葉で形容したくない。

35mmの美しい撮影が光る。最初ポスターとファッション全然違うじゃんと思ってたらやむを得ずあの服に着替え、あの車に乗るという流れが面白かった。『POSE/ポーズ』のインディア・ムーアや『ジュラシック・ワールド』の”Close the gate!”小僧も出てくる。特にレッチリのフリーは今回も素晴らしい演技で作品のチョイスといい事務所が相当優秀なのか本人の審美眼がえげつないのかとにかくベストアクト量産してるイメージ。

途中までは「アフリカ系にもこれくらい軽いクライムムービーがあってもいいでしょ」と意識的に重くし過ぎない塩梅を狙っているのかと思った。それこそ『NOPE/ノープ』が狙っているような「映画としての面白さ」と言う意味でのエンターテイメント性を(ダニエル・カルーヤが馬に乗ると言い出したところは少し笑った)。
しかし子供のエピソードを絡めたあたりからそのバランスではキツくないか?ってくらい事態が深刻になるんだけど相変わらず二人は割とヘラヘラしてるのでここはほんのりイラッと来た。彼らは成り行きでああなっちゃったけど子供には「私たちはしてはいけないことをしたんだ」とはっきり伝えるべきだったのでは?セックスシーンとデモシーンの対比はちょっとこれ見よがし過ぎるなと思ったし、二人のことを批判的に見るとするとこの後の結末に向けての部分と矛盾してるしでよくわからない。
その後二人のヘラヘラ度とは相反してしっかり彼らは騙されこういう映画のお決まりとして悲惨な死を迎える。あの遠景で終わってれば映画としての完成度は高かったんだけどこの後にもそれを受けたアフリカ系の人々のリアクションが入る。個人的な映画の好みとしてはこれは蛇足なんだけどしかしどうしても軽いままでは終われなかった製作の気持ちは理解できる。でもあの二人が神格化されて終わるのにもまた違和感が。二人はあの警官がアフリカ系を殺していると知らなかったわけで、あのムーブメント全体は民衆が勝手に物語を作ってより対立をヒートアップさせることにしかなってなかったと思うんだけど、さも良いことかのようなラストショットの連続だったよな……。

そんな感じでちょっと悩ましい映画だった。
ユウサク

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