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最初の晩餐のrのレビュー・感想・評価

最初の晩餐(2019年製作の映画)
3.9

家族って、繋がりとしてはものすごく力強いくせに、物や形としては見えないし、当事者である自分たちには分からないこと、そして家族同士でも実は知らないところだらけだけで。そんな危うさや曖昧さを打ち消す存在として、この映画の物語上には東家の手料理が幾つも輝きながら散りばめられていて、彼らの日々を繋いでいる。それぞれの手料理のユニークさが一つ一つのエピソードをより際立たせていることは言うまでもなく、手料理ごとにフォーカスされる家族が自然に入れ替わるのもまた心地が良い。

派手なアクションや劇的な出来事が連発する訳でもなく、大枠の物語は本当にあらすじだけ読めば足りてしまう。けれども、一つの家族に焦点を当ててじっくりと描き切るこの感じ、「これこそ映画だよなぁ」って。観ながらジンワリ感動していた。

一人暮らしの誰もいない真っ暗の家に帰ってから、明かりをつけて、自分のためだけに作ったお味噌汁を電子レンジで温めて食べながら、小さい頃に母の日に父と早起きして作ったフレンチトーストを思い出した。塩と砂糖を間違えてかなりしょっぱく、お世辞にも美味しいとは言えない出来だったのだけど、嬉しい美味しいと言って母が完食してくれたのを思い出した。こんな風に、誰もがきっと東家のように宝石のような手料理とその思い出を持ってるんだと思う。そして今後、私は誰とどんな最初の晩餐を共にするのかなぁ。

映画を観るまで、タイトルの意味があまり良く分からなかったけれど、最初の晩餐って、きっとその時は無意識でその有り難さを知る由もないもので、後から振り返った時にあれは晩餐だったなぁって気付けるものなのかも。

誰かがぽつりと呟く何気ない一言で初めて家族の一面を知る、ということも、悲しさではなくてちょっとした喜びに満ちた発見に変換できる魅力、そんな力に常に満ちた映画でした。

※最後に、台詞のネタバレ?かもしれないので嫌な方は以下は読まないでください。

劇中の母アキコが子供達へ放った「私、あなたたちと一緒になって後悔してないの。」という言葉の説得力が素晴らしい。「一緒になって本当に良かったと思ってる」などと言うのではなく、「後悔してない」。たかが家族、されど家族、家族なんて(すごく良い意味で)そんなもので良いのだ、と思わせてくれる。この台詞一つがもたらしてくれる、寛容さのようなものがこの映画の異様な居心の良さの正体なのかなと考えた。
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