福福吉吉

ソワレの福福吉吉のレビュー・感想・評価

ソワレ(2020年製作の映画)
3.5
役者志望の岩松翔太(村上虹郎)は、劇団のメンバーとともに和歌山県の介護施設に慰問として演劇を教えにやって来た。その中で、施設で働く山下タカラ(芋生悠)とともに夏祭りに行く約束で、自宅まで迎えに行った翔太だったが、タカラが彼女の父に襲われているところに出くわし、翔太は彼女の父を引き離したが、タカラは彼女の父をナイフで刺してしまう。タカラは翔太を引き連れてその現場から逃げ出してしまう。

ストーリーとして全体的に緩やかに展開しますが、シーンの一つ一つに翔太とタカラの心情が上手く描かれていて、観ていて退屈しませんでした。

翔太はお金に困ってオレオレ詐欺に加担してお金を稼ぎ、芝居に真剣に打ち込めていない中身のない人物として描かれています。

一方、タカラは父親から性的虐待を受けた過去から男性に心を開くことができず、常に父親の恐怖に脅かされているように感じました。恐怖のあまり自分の人生に希望を持てない姿が描かれていました。

翔太はタカラを彼女の父から助け出し、流れのまま逃避行するのですが、翔太とタカラのどちらにも「~したい」という希望が無く、空っぽのまま、行き当たりばったりで田舎町を歩き続けているように感じました。

それでも色々な出来事を経て、翔太とタカラのそれぞれに意思が生まれ、喜びや苦しみを感じ、ときには対立し、そして自分の現在を認める姿に、空っぽだった二人の中身が少しずつ満たされていくように感じました。

ストーリーとして特に大きな捻りは無く、それぞれがどうしようもないと思っている人生を送る翔太とタカラの心情の移り変わりを丁寧に描いた作品であり、派手な展開は無いけど、観終って心地良い気分になりました。

なかなか良かったと思います。
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