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少年の君のMiiのレビュー・感想・評価

少年の君(2019年製作の映画)
4.0
本作に関する感想レビューはもう沢山の方がここに書いたので少し違う事を書いてみたいと思います。※内容としてネタバレはほぼ含まないが、鑑賞後にお勧めします※

★皆さんの勘違い訂正:
①映画の舞台は香港ではなく中国内陸です。
撮影地も重慶市(元々四川省にあった市だが今は上海と同じ扱いの直轄市)で、中国内陸の高校生活を描いてます。監督は香港出身のせいか、勘違いされる方いらっしゃいます。
② 本作は実話に基づいたものではありません。
エンディングのテロップは確かに誤解を招きやすく感じます。ネット小説が元だけど、脚本は色々変えたと聞いてます。

★日本語翻訳はもったいなすぎる
「你和我不会,但他们还是少年」
(私たちはしないけど、彼らはまだ少年だから)
のところは何故か「私たちはしないけど、彼らはまだ若いから」に訳されて、何故わざわざ「少年」を「若い」に替えたかよく理解できませんでした。
個人としてここのセリフは全編で最も重要で、これがあるからこそ「少年の君」になっています。
とても残念です。

★映画の裏話や主演の易 烊千璽 (イー・ヤンチェンシー)について:
・本作は香港アカデミー賞で8つの賞を取り、そのうち最優秀撮影賞は初の女性である余静萍さんが獲得。少年たちの不安定な心理状態と、未来に対する期待や不安を表現する為に、撮影は全て手持ちカメラを使用していた。
・ヒロイン役の女優チョウ・ドンユイはチェン・ニェンとほぼ真逆な性格で、役作りなど一苦労。
・主演のイーは実はタバコを吸わないため、タバコシーンの撮影は大変だった。
(他の裏話に興味をお持ちの方はYouTubeで【日本語字幕】映画「少年の君」メイキング映像 を検索すれば観れます→https://youtu.be/pIsgfOlGcmQ 。日本語字幕を付けました。映画に対する思いや監督・プロデューサー・主演二人の話が聞けます。ドキュメンタリーにネタバレなど色々入っているので、必ず映画をご覧になってから見てください)

主演女優のチョウ・ドンユイをご存知の方多いので、シャオベイ役のイー・ヤンチェンシーについて少し紹介します。
イーは2000年生まれのアイドルであることに驚く方は多いようですが、彼は中国で人気絶頂のアイドルに間違いありません。3人グループTFBoysは13歳からの結成なのでいわゆる「成長系アイドル」とも言われています。
ただ私から見ればイーは単なるアイドルではなく、異質な存在とも言えます。顔立ちがイケメンであるにも関わらずかなりの努力家——演技が上手い上、ストリートダンス·英語·書道などにも長けて、現在在学中の中央戯劇学院(一流の難関大学)には学力試験と演劇試験のダブル首席で入学。ストリートダンスは中国のリアリティバトル番組「Street Dance of China」(这!就是街舞)のシーズン1&2で審査員&チームを率いるリーダーの1人として務めていました(2020年のあるイベントで同番組参加者たちとのダンス舞台→ https://youtu.be/m3g91aN9Shg)
※余談:熱血で面白い番組なので、興味ある方是非チェックを。
また、本人はデビュー以来チャリティー事業に熱心で、17歳の時に自分名義の「易烊千玺爱心基金」(チャリティー支援金)を立ち上げ、本人が初期約2500万円を寄付した。
ファンでは無いけど凄く好感度の高い優秀なアイドルで感心しています。

★皆さんが気になるいくつかのことに答えてみようと思います:
①中国の大学受験はこんな厳しいものなのか?
そうです。中国の大学受験=高考は日本と違って、統一試験は年に一度しかないため、一発勝負です。毎年決まった日の6月7日〜10日(受験地域によって2日-4日間の差がある)で全国の高校三年生が一斉に受けます※ここで挙げたのは一般高校生の受験で、芸術生などまた少し違ってきます※
今年の試験問題紙は全国で約8種類あり、地域によって試験問題が異なります。何故一発かと言うと、この2-3日間の試験が終わった後、自ら正解用紙をチェックし、大体の点数を把握→その年の各大学の採用ラインが発表され、受けられる/希望大学を4つまで用紙に書いて提出する→点数発表と大学合格通知書を待つ。そこで、自分の行きたい大学に点数が足りなかったり、点数予測失敗、例えば高く点数取れたのにそれなりの大学を志願してない、予測よりも大分点数低く志願した大学の合格ラインに達しないなどで浪人する人もそれなりいます。勿論、良い大学ほど合格ラインが高いです。
チェン・ニェンのクラスもこういう浪人クラスだけど、本人は浪人ではなく転校生って先生が話してました。浪人クラスは一般の三年生クラスよりもピリピリしていて、プレッシャーも普通以上あります。
中国では高考は一大行事なので、親や家族全員が試験場外で子供を待ち、花束をあげたりします。
チェン・ニェンが舞い降りてくる紙くずの中に立ち尽くすシーンは、不思議と感じる方もいますがそれもリアルです。統一受験を終えた後、大勢の学生は今までのプレッシャーを捨てるかのように、教科書・教材などをビリビリにして教室の窓から投げ捨ててます(現在禁止されたかは分かりませんが、昔は定番と言えるほど学生たちはやってました)。
基本、本作で描かれている中国の高校生活はそのまんまです。現実をリアルに描かれているからこそ、主演二人の出会いやストーリーに偽りなど感じることなく映画に没入出来たと思います。

②中国の高校にロッカーなどないの?
ないです。今はある学校もあるかもしれないが、中国の高校は1クラスに50〜60人なので基本ないと思っていいです。だから机の上に山のような参考書、教材もリアルです。

③ヘルメット無しでバイクに乗れるのか?
法律上は駄目です。ただ普段被ってない人はたまに見かけます(農村部だと多いけど)。映画の中にヘルメット無しのシーンは、まず2人は高校生年齢とは言えそこまでの安全意識がないのと、ヘルメットを買う余裕なお金もないと思います。特に小北は不良少年で、ヘルメットを着用してると逆に ?とちょっと違和感を覚えるかもしれません。

④映画にあった陰湿で残酷ないじめ、過剰演出では?
やり過ぎたり作り話ではありません。一人の子が何人かに囲まれて、髪の毛を切られたり、ずっとビンタされ続けたり、服をやぶされたり、加害者側が撮ったビデオがニュースなどに取り上げられることしばしばありました。被害者は女子の方が多いが、男子もいます。小学校〜大学までいじめが存在し、中に中学生とは思えないくらいの残忍で酷いいじめもあります。

⑤ 人前で子供を殴るシーン
中国ではこのような親はわりかしいます。子供が学校で成績が落ちたり、何かをやらかしたりすると保護者である親は学校に呼ばれます。子供に対する失望と、自分に恥をかかせた怒りで、先生、ましてやクラスメートの前で子供を叱ったり、手を出す親がいます。
つい最近のニュースで、ある14歳の男の子が学校でトランプを遊んだ関係で母親を学校に呼ばれ、教室外の廊下で母親に叱られビンタされたのを学校の監視カメラに撮られました。その時まだ他の生徒や先生もいて、母親が離れて2、3分後に、男の子が廊下から飛び降りその後死亡が確認されました。
近年若い世代の人が親になるにつれ、こういった現象はかなり減ってはいるものの、現状まだ見かけます。


本作は2019年に中国で上映当時見に行き、かなり好きだったので日本公開時にもう一回観てきました。原作小説のパクリ問題など未だに中国で議論されていますが、映画を楽しむ点・ストーリー構成・役者の表現力・音楽や映像美、そしてメッセージ性は私自身から近年に公開された数少ない社会派映画の中で素晴らしい作品だと思います。特に検閲が厳しい中国では、社会派映画の公開が決して容易ではありません。
個人的には現実で起こりそうで起こらない、リアルだけどリアルでない話(本作だとチェン・ニェンとシャオベイの出会い)が好きです。いや、一番好きかもしれません。これが映画の魅力だとも思っています。何もかも現実を忠実に描写したら、映画も想像力を失い、つまらなくなります。
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