EMI

劇場のEMIのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

変わってしまった自分といつまでも変わらない永田。別れを選ぶしかない状況でも尚、永くんが変わったらもっと嫌だ、と言う沙希。夢を追う永田を信じ続けることで沙希も救われていたのだから、現実的に打算的に永田が生きるようになってしまったら、それは沙希が惹かれた永田ではないんだろうな。長い人生の中で変わることは仕方のないこと。二人にとって別れは必然だったのではないかとさえ思う。あの時こうしていたら、はきっと無いのだろう。「こんな当たり前のことがなんでできなかったんだろうね」別れが迫った今思えば簡単なことに思えることが、どうしても出来なかった。戻ってやり直してもきっと結末は変わらない。別れを前にした二人のやりとりは切なくもどこか美しく感じてラスト15分涙が止まらなかった。美しいと言うべきなのか、あまりに美化しすぎていやしないか、そう思いながらも他にふさわしい言葉は見つからなかった。人生にはいろんな選択があって当然。正解なんてものはない。変わらずに想い続けられることがどれだけ偉大なことなのか感じると共に、生涯を遂げることはなくとも人生において必要な人物はきっといるのだろうとも思った。
行定監督はナラタージュの印象が強くラブシーンを丁寧に描く監督だという認識だったけれど、劇場では一度もラブシーンがない。それは原作に忠実だからなのだけれど、そんな安直なもの必要ないのだと言っているかのようだった。ラブシーンなどなくても二人の間の愛を、深いつながりを、表現できるのだ。むしろ無いからこその説得力。個人的にはすごく好きな作品。それは今自分の置かれた状況と重ねているからなのかもしれないけれど。鑑賞後辛く苦しい気持ちに包まれながらも観てよかったと心から思った。
EMI

EMI