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FREAKS フリークス 能力者たちのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.6

このレビューはネタバレを含みます

父と2人で暮らす7歳の少女クロエは、外の世界は危険だと教えられ、家の中だけで過ごす寂しい毎日を送っていた。ある日、父が眠っている隙に家を抜け出した彼女は、家の前に停まっているアイスクリームトラックの老人に声を掛けられ、父に無断で家の外に出てしまう…。

低予算ではあるが、拾い物のSF&ミステリーの佳作。
散りばめられた謎を次第に回収し、物語が予想外に動く起承転結のある脚本が秀逸だ。

なぜ、外の世界は危険なのか?
なぜ、父親や少女に偽りの身分を練習させるのか?
なぜ、父親は大量の札束や銃を所持しているのか?
なぜ、少女の部屋に突如として他人が現れるのか?
買い物に行くだけで負傷して帰る父親に、犯罪を犯した父と娘が何者かに追われ身を隠しているのか?と想像させる序盤はミステリー仕立てだ。

アイスクリームを食べたいがために、少女が家の外に出たことから物語が動き出す。
アイス売りの老人は、自分がクロエの祖父で、母が生きていること、自らが持つ不思議な力のことをクロエに教える。
父親が外の世界は危険だと教えていたのは、「超能力者は危険」だとして徹底的に迫害される世界だからというネタバラシ。

警察に拘束されそうになり、祖父も透明化できる能力を持ち、父親も時間を止める能力を持つことが明かされ、物語は一気にミステリーから超能力SFへと転換する。

外出を父に叱られたクロエは、感情の高ぶりにより特殊能力が覚醒する。
その能力は「人の心を操る」という危険なもの。
偽りの身分を練習していたのは、金で買収した向かいの家族にクロエを匿ってもらうため。
その金は父親が能力でどこからか奪って来たのだろう。
クロエの能力は「人の心を操る」ものだが、一時的なもの。
無理矢理能力で向かいの家族に「愛してる」と言わせるが、結局は化け物=フリークスと言われるのが悲しい。

クロエが時折見ていた幽霊のような女性は、実は政府に囚われた母親だと分かる。
クロエは能力を持つ父と祖父と共に、政府に監禁されている母を助け出すため、その能力を開花させていく。

向かいの夫婦が警察に通報するが、即銃撃や隠れ家をミサイル攻撃をするところは、流石アメリカ映画。
現実の人種差別と人権無視をストレートに重ねてくる。
父親が時間を止めながら抵抗する中で、クロエが政府関係者を遠隔操作して母親を救出する作戦が同時展開。
父親が時間を止めれば遠隔操作も止まるので、なかなか上手くいかないのがハラハラする。

クロエは母親を助けたが、父親も祖父も犠牲になって死んでしまう。
また、この母親も超能力者で(恐らく何らかの手段で能力が封じ込められていた)地下から脱出すると、高速で空を飛び、警察を薙ぎ倒してクロエを救出するスーパーパワーの持ち主。
(なるほど政府が能力者を危険視するのも無理はない…。)
父と祖父の死を見届けた母と娘は、世の中に復讐を誓って飛び去って行く…。

冒頭の無垢で弱々しい表情とは全く違う、復讐の決意を感じる強い視線。
クロエを演じる子役の演技力が素晴らしい。
もちろん個性派のエミール・ハーシュ、ベテランのブルース・ダーンの確かな演技力が、子役とサスペンスフルな世界観を支えている。
役者良し、脚本良しの工夫が凝らされた作品だ。

「いざ、これから…」というところで映画は終了。
低予算であるし、少女の超能力覚醒がテーマなので仕方ないが、もっとド派手な超能力バトルが見たかったのが不満。
しかし、続編は無い方がいい。
「XMEN」に似た超能力バトルが想像されてしまう。
あの可愛らしい幼気な少女を「キャリー」のように血塗れにするのも酷だ。

個人的には能力者が力を発動すると、血の涙を流すのが上手い演出だと思った。
クロエが我を忘れる時、父親が寝ずに必死で戦う時、祖父が亡くなる時、能力者は決まって右眼から血を流す。

その姿は、まるでキリスト像が現世の醜さを嘆いて、眼から血を流す宗教的なイメージと重なる。
マイノリティの迫害、人種差別反対のメッセージが、キリスト教が解く博愛とは全く違う意味に見えてくる。
単に悲しいだけでなく、胸に迫るものがあった。
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