つかれぐま

シャン・チー/テン・リングスの伝説のつかれぐまのレビュー・感想・評価

4.0
21.9.15@調布ULTIRA

フェーズ3までの貯金に頼らず、しかも初のアジア人ヒーロー誕生譚という困難なミッションをクリア!鑑賞中はアクションに酔い、鑑賞後はドラマを噛みしめる「お得感」に大満足。

ジャッキーチェンに代表されるカンフー映画。凄いとは聞かされていたが、脚本の適当さや美術のショボさにどうしても食指が伸びないジャンルだった。本作はそういう不満、というか不安点を、MCUの完成度をもって見事に解消している。安心して「これぞカンフー」を楽しめる幸せ!「ブラックウィドウ」でも感じたけど、もはやMCUは誰が監督してもハイレベルなアクションが保証されているのね。ちょっと前まではルッソ兄弟じゃないと撮れなかったレベルが、もはや全作で出来ちゃう凄さ。

そして東洋文化へのリスペクト。
シャンチーたちはちゃんと靴を脱ぐし、中国語を話す。英語圏の人々にここまで字幕を読ませる映画も珍しい。同じ東洋人の目から見て、ハリウッド映画にありがちなトンデモ勘違い描写はなかったんじゃないかな。

だが、全面的に東洋中華文化万歳!かと言うとそこはMCU、ちゃんと一石を投じてくる。物語は王道の成長譚であり、MCUに限らずハリウッド映画お馴染みの「父殺し」が展開されるが、これは家父長制文化が根強く残る中国の保守層が見たら受け入れ難いだろうな。これが「遠い銀河の果て」の話ならともかく、自分の国の話だもんね。もっと一般化すれば既得権者への反逆にも見えてくるし。それが原因かは分からないが、本作はまだ中国で公開されずにいる。そんなリスクを承知の上で(むしろそんな状況だからこそなのかな)こういう話にした心意気は称賛すべき。

見事なリアクション顔芸を披露してくれるケイティは、みんなに好かれるキャラクターに成長していくだろう。重くなりがちなシャンチー一家の話も、必ず彼女が和ませてくれるカウンセラー的なポジションであり、シャンチーとの恋愛にならない男女バディという設定も新鮮でずっと見ていたくなった。

エンドクレジット:
「ブラックウィドウ」に続き、またしても妹の話。まんまとやったね!何だか嬉しくなったよ。面倒くさそうな「骨董品」は兄貴に預けて、あたしゃ実利のほうをもらうよ!というカッコ良さ。完全に父のことは忘れてるだろう潔さにも苦笑。