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ハロウィン KILLSの湯呑のレビュー・感想・評価

ハロウィン KILLS(2021年製作の映画)
4.6
ジョン・カーペンターによる1978年のホラー・クラシック『ハロウィン』の40年後を舞台にした2018年版『ハロウィン』は、全米公開初週で7600万ドル以上の興行収入を稼ぐヒットとなった。その結果、監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンが希望していた3部作構想についてもGOサインが出て、この続編『ハロウィン KILLS』の公開とあいなった訳だ。1作目の成功により、制作陣には創作上のより大きな自由が与えられたという。ジェイミー・リー・カーティス演じるローリー・ストロードだけでなく、リンジー・ウォレス、マリオン・チェンバース、ブラケット保安官など、1978年版に登場したオリジナルキャラクターが再集結する、という今作の趣向は、製作陣のファン心理が反映されたものに違いない。更に言えば、今作は2018年版『ハロウィン』で描かれた事件の直後から始まるが、これは1981年に作られた『ハロウィンⅡ』に倣ったものだろう。
『ハロウィンⅡ』も1作目の直後、ブギーマンを撃退したローリーが病院に搬送されたところから物語が始まっていた。ローリーが病院のベッドで眠っている間に、ブギーマンが病院関係者をブチ殺しまくるという、前作とは趣向の異なる展開が見どころで、最後には驚愕の真相が明かされる。『ハロウィン KILLS』でも、前作で大怪我を負ったローリーが病院に収容され、その間にブギーマンが大暴れする、という基本的なプロットは変わらない。しかし、最終的にはローリーとブギーマンの一騎打ちへと収束していく『ハロウィンⅡ』とは異なり、今作ではブギーマンの復活によってパニック状態に陥るハドンフィールドの町そのものにスポットが当てられ、変則的なディザスター・ムービーへと舵を切っていく。
ハドンフィールドの住人たちは自らの身を守る為に自警団を組織し、ブギーマンの捜索を始めるものの、次々と住人が殺されていくのを目の当たりにし冷静さを失っていく。疑心暗鬼に駆られた彼らは、やがて無関係な男をブギーマンと決めつけなぶり殺すに至るのだが、ここにはもはや、鬼畜の如き殺人鬼と恐怖に怯える善良な人々、という構図が成立しない。猜疑心に駆られた人々の恐怖が伝播し、新たな恐怖が生み出され、憎しみだけが増幅していく。それはジョン・カーペンターが『遊星からの物体X』や『ゼイリブ』で描いたアメリカ社会の縮図でもあるだろう。
リブート版1作目は、オリジナル版の空気感を現代に蘇らせる事に成功していたが、それに続く2作目では、トランプ政権と新型コロナウイルスが浮き彫りにしたアメリカ社会の抱える闇をスラッシャー・ホラーのプロットに落とし込み、なぜホラー映画は作られるのか、なぜホラー映画のモンスターは何度でも甦るのか、と問いかける自己言及的な作品に仕上がった。正直言うと、眼高手低というか独自の色を出そうとした途端にデヴィッド・ゴードン・グリーンの演出の弱さが浮き彫りとなり、散漫な印象の残る作品となってしまったが、ホラー映画のマスターピースから新たな物語を紡ぎ出そうというその心意気は買う。3部作の掉尾を飾る『Halloween Ends』がどの様な展開を見せるか、期待して待ちたい。
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