りょう

1917 命をかけた伝令のりょうのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
3.8
 “全編ワンカット風”の作品といえば、もう30年前くらいに観たきりですが、アルフレッド・ヒッチコック監督の「ロープ」が最初の経験でした。1948年の作品としてはかなり実験的でしたが、70年以上経過しても基本的な技法はそのままなんだろうと思います。
 この作品を1回目に観たときは、長回しのつなぎ目ばかりを意識してしまい、映画そのものを俯瞰して観ることができず、あまりいい印象にはなりませんでした。2年ぶりに2回目を観てみましたが、これだけのスケールの戦場を描く映画として、“全編ワンカット風”が本当に効果的なのだろうかという疑問は解消されませんでした。
 素人には想像もできないような撮影技術でないと映像化できないシーンが多用されていたり、これだけの長回しなのに緻密で繊細な描写も少なくないことなどは驚異的です。ただ、長回しに伴って制約される表現も多いはずなので、監督がどのようなビジョンをこの作品に投影したかったのかにもよりますが、個人的には戦争映画に長回しはなじまないという感想です。この作品と比較されがちなクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」は、思いっきり時間軸を交錯させて、映像の編集でハンパない緊張感を創出していますが、没入感という意味でもかなり効果的な演出だったと思います。
 終盤の市街地で乳児を養育する女性が登場します。意図的な演出なのかどうか、いい意味で緊張感から解放されますが、少しとってつけたような印象だったので、賛否のあるシーンかもしれません。
 気づけば悪口のようなことばかりになってしまいましたが、マーク・ストロングやベネディクト・カンバーバッチの登場シーンは画面がキリっとするし、この当時の戦場を舞台にした作品にしては劇伴に現代音楽の要素があって新鮮でした。物語性が希薄であることはやむを得ないとしても、キャストとスタッフの創作意欲が結実した映像表現としては超一級の秀作であることに疑いありません。
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