ノラネコの呑んで観るシネマ

1917 命をかけた伝令のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.8
ドイツ軍の罠に誘い込まれた英軍連隊1600人の突撃を中止させるため、二人の兵士が伝令として走る。
いい意味で予想を裏切られたな。
売り物のワンカット風編集は、観客を第三の伝令として映画に巻き込むためのものだが、いわゆる生々しいドキュメンタリータッチとは異なる。
あくまでも臨場感を高めるための手法であって、ワンカットであることにはそれほど拘ってはいない。
実際中盤には明らかな時間経過の暗転があるし、水に落ちてロケーションをワープさせてるところもある。
本作が特徴的なのは、むしろ劇映画としての凝った構造。
塹壕から始まる冒険は、ノーマンズランドを超え、一見してのどかな農場から敵の姿の見えない市街戦、そして森へ。
第一次世界大戦の全てのステージを駆け抜ける旅は、まるでRPGゲームの様。
最初は消極的だった主人公には、それぞれのステージで試練が降りかかり、変化してゆく。
英軍の物よりずっと立派なドイツ軍の迷宮のような塹壕、誰と誰が戦っているのか分からないカオスの市街戦といったステージは、極めて劇的に作り込まれており、キューブリックからマリックまで、観る者の映画的記憶を刺激する。
非常に興味深いのは映画の成り立ち。
この映画は第一次世界大戦で兵士だったメンデスの祖父が語った話を基にしているそうで、ピーター・ジャクソンの「彼らは生きていた」と起点は同じ。
どちらも現在のデジタル技術によって生み出された作品だが、一番の共通点は描かれている対象への距離感の近さだろう。
自らのルーツとなった肉親の物語という成り立ちが、それぞれの映画を静かに情熱的なものにしている様に思う。
彼らが命をかけた戦争そのものに対して、政治的な意味を与えていないのも特徴的だ。
本作や「彼らは生きている」みたいな作家のスタンスで戦争を描いた作品って、なぜか日本映画ではあまり見られない。
うちの祖父たちもそうだったが、負けた戦争の話はあんまりしたがらなかったからかな。
ブログ記事:
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