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1917 命をかけた伝令のGKのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.0
現実感のない、今までで一番現実に近い戦争映画。

『1917』を一言で表すとそういうことになると思う。

本作は、1917年の第一次世界大戦の兵士の1日を撮った作品。
一番長回しで撮ったのは10分弱らしいが、撮影した映像を高度な技術でつなぎ合わせてノーカットの映像のように見せている。
ドキュメンタリーと言われても違和感がない。それだけカメラの存在感がない。


内容に関して言えば、ストーリに大きな起伏があるわけではない。
上等兵であるスコフィールドが「自陣から戦闘地帯を抜けて味方の大隊に伝令を届ける」それだけの話である。

派手な銃撃戦はない。感情をぶつけ合う兵士同士のやり取りもない。
ではそこに何があるのか。
淡々としていて、ただただ悲惨で無味乾燥な戦争の現実である。

全員が「祖国を守るために全力を尽くすんだ!」と高揚感にあふれているわけではない。
塹壕で泥にまみれながら疲れ切っている兵士が大勢いる。

全員が「戦勝に向けた貢献をしてメダルをもらうんだ」と名誉のために戦っているわけではない。
スコフィールドはメダルをもらったが今は持っていないという。
「フランス人と話をして、ワインと交換したんだ」と言う。

これまでの多くの映画の中では「兵士同士の熱い友情」「状況を高いする一か八かの作戦」「圧倒的な悲惨さ」、
そういった光景が描かれてきた。
本作にそれはない。

ただそれは戦争の一部を切り取ったもの、誇張したものであり、100年前の戦争の現実とは少し遠いものなんだろう。

手触り感があるが、「本当にこれは現実か?」と思うほどに通常の生活に近い、その延長線上の地獄絵図。
『1917』はそれを表現している。

鑑賞している最中、鑑賞後、鳥肌が立ったり涙が出ることはなかった。
現実感がないゆえに、特別な感情を抱く前に進んでしまうもの。
戦争とはそういうものなのかもしれない。


そして、エンディングを見ながら「戦争という題材は、なぜ現代においても取り上げられ続けるのだろうか」ということを考えていた。


撮影責任者のロジャー・ディーキンス氏はこう話をしている。

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数年前なら存在しなかったようなアイテムを沢山使った。それらが無い時代にこの映画を撮影しようとしたなら、自分たちで作らないといけなかったはず。だから、テクノロジーの進歩は重要なファクターだね。
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撮影技術が進歩したから本作のような映像作品が撮れた。
もちろんそれだけではない。テクノロジーにクリエイター達の撮影技術、そして熱意があったからこ作ることができた作品だろう。


「なぜ新しい表現で戦争を描こうとする?」


『1917』はタイトル通り、第一次世界大戦中の1917年のとある1日を切り取った作品だ。
今は2020年、1917年から100年以上経っている。
スコフィールドのような当時の若者はもう亡くなってしまっている。

第二次世界大戦は1945年に終わったわけだが、当時20歳だった人は2020年に90歳。
第二次世界大戦を経験し、その記憶を持っている人は減り続けているし、間もなくいなくなるだろう。


その時、戦争の現実を伝えるのはなにか。
それが「物語」であり、その一つの表現手法が「映画」なのだろう。


『1917』を鑑賞して「つまらなかった」と感じる人もいるとは思う。
そしてそう感じる人は『プライベート・ライアン』に心が揺さぶられるのかもしれない。
人によって、どんな内容で、どんな表現で心が揺さぶられるのかは違う。当たり前のことだ。

だからクリエイター達は、新しい内容で、新しい表現で戦争映画を作り続けている。
Z世代は、『1917』よりもInstagramで投稿される写真のようなカラーで戦争を表現する『ジョジョ・ラビット』を良い映画で好きな映画と言うだろう。
それでいいのだし、そういうものなのだと思う。

戦争映画はこれまでたくさん作られてきたし、これからも作られ続けるのだろう。

第二次世界大戦を経験した人がいなくなる時代の映画の役割。
そんな矜持を『1917』に見た。
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