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1917 命をかけた伝令のyuseのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.0
アカデミー撮影、視覚効果、録音賞を受賞しているこの映画は、絶対映画館でしかもIMAXで観たいと思って鑑賞した。

ワンカット映画として名高い今作品は、実はワンカットではなくそう見せているだけではあるが、どう撮影してるの?と思わせるような非常に巧妙なカメラワークをふんだんに駆使していて、そこに魅力を感じた。
だが個人的に一番この作品にのめり込めた理由は、圧倒的な戦場のリアル感である。馬の死骸にハエが沢山集っていたり、急に銃弾を浴びせられそうになるあの緊迫感だったりが、あたかも自分の目の前で起きているような錯覚に陥らせてくれる感覚がとても映画体験を素晴らしいものにしてくれた。これはストリーミング鑑賞では絶対体験できない。
酔うのが心配という人もいるが、絶対IMAXで鑑賞してほしい、今すぐ映画館に駆け込んで観て欲しいと思える傑作。





↓以下はネタバレを含むレビュー
【Motivation(鑑賞動機)】
戦争映画やSF映画は基本的に映画館で鑑賞するようにしている。今作品は特にアカデミー撮影、視覚効果、録音賞を受賞していて撮影・音響部分に力を入れた作品だと捉えていたので、迷わず映画館でIMAXで観ようと思い鑑賞。
ワンカット風に撮影されているという点も魅力のひとつだった。

【Scenario(内容)】
1917年のヨーロッパは第一次世界大戦の真っ只中、イギリス軍はドイツ軍と西部前線で交戦中だった。
イギリス軍第八連隊に所属する上等兵のウィリアム・スコフィールド:以下ウィル(ジョージ・マッケイ)とトム・ブレイク:以下トム(チャールズ・チャップマン)は、エリンモア将軍(コリン・ファース)から最前線にいる第一連隊のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)に攻撃中止の伝令を伝えるよう頼まれる。これによって第一連隊の1600人を救えると言われる。
トムは第一連隊に兄のジョセフ・ブレイク中尉(リチャード・マッデン)がいるため、彼に会えることを楽しみにする。

二人は死の覚悟をしつつ第八連隊から飛び出して戦場に出向く。
ウマの死骸、兵士の死体を目の当たりにしながら、鉄条網が一部破れた隙間から敵地へと進んでいく。
ついに二人は敵の前線基地へ忍び込むが、どうやらつい先ほどまで敵兵がいた痕跡がある。前線基地の地下倉庫で犬の肉がぶら下がってネズミが触れると爆発するトラップに引っかかってしまう二人。ウィルは生き埋めになるもトムによって助けられる。

森を抜け、折られた桜の木々を通り過ぎ、牛農家の小屋へ忍び込む。人のいる気配はしない。ウィルは水筒に、牛小屋に残されていた牛乳を詰める。
そこへ敵の航空機が上空で攻撃され、牛小屋目掛けて墜落する。その航空機には操縦士が搭乗しており負傷していた。二人は助けようとするも、トムは操縦士の持つ刃物で刺され絶命する。泣き叫ぶウィルは、彼の話していた兄にトムの死を伝えるため、トムの所持品を預かる。
そこへ味方の連隊と遭遇し、目的地クロワジルに近い街までトラックで連れて行ってもらうことに。

街に着き、味方連隊に励まされながら別れて目的地へと進み出すウィル。どこからともなく狙撃されたりと危機に直面しながら、敵兵が潜んでいると思われる廃墟の教会に入る。敵兵一人を見つけるも相討ちになってウィルは気絶する。
夜中に目の覚めたウィルは、廃墟の教会を出て炎上する市街地の方へ走り出す。敵兵に遭遇して狙撃されるも民家に忍び込んで身を隠す。そこで戦禍に怯える女性と出会う。彼女は両親不明の赤子の面倒を見ていた。ウィルは夜明けの鐘が鳴ると赤子にミルクを授けて再び外へ出て目的地を目指す。
再び敵兵から狙撃されながらも川に飛び込み逃げ切る。ウィルは川に流されて兵士の死体が沢山浮かぶ水面を這い上がって地上に出る。

どうやらたどり着いたのは森の中。森から歌声が聞こえるので近づいてみると、どうやら目的の第一連隊にたどり着いたようで、この森がクロワジルであることが分かる。
ウィルは、早速連隊の最前線にいるマッケンジー大佐を探しに向かう。ウィルは兵士達を押しのけて前線へ前線へと進む。すでに独軍との戦闘は始まっており、爆撃飛び交う戦場を走り抜けて伝令をマッケンジー大佐に伝えて攻撃を中止した。
しかしマッケンジー大佐はウィルにこう説明する。ウィルの伝えた攻撃中止命令は一時のもので、またすぐに攻撃再開の伝令が来る、兵士が一人になるまで戦うものなんだと、戦争が終わる訳ではないのだと。

落胆したウィル、彼は最後にトムの兄ジェセフの居場所を聞いて兵士の救護施設へと向かう。ジョセフに会ってトムの遺留品や最期を伝える。ジョセフは泣きながらウィルに感謝する。
ウィルは娘の写真の裏に戻ってきての文字を見つけるところで終了。

ストーリーは至ってシンプルで、攻撃中止伝令を授かる→途中で相方のトムが死ぬ→ウィルが一人で戦禍をくぐり抜けて伝令を伝える→トムの兄に弟の死を伝えるというもの。監督サム・メンデスの祖父から聞いた戦争体験を元に作られたフィクションで、どこまでが事実でどこまでがフィクションかはよく分かっていない。
廃墟の教会のシーンなど「フルメタル・ジャケット」やTVシリーズ版「攻殻機動隊」のオマージュも見受けられて、戦争映画好きの私には堪らない内容ではあった。
だが、あまり期待してはよくないかもしれないが、もう少しストーリー性はフィクションであっても欲しかったと感じた。この作品の売りが映像体験であることは分かるが、もう少し脚本に力を入れて欲しい感じはした。

【Looks(世界観・演出)】
やはり今回の作品の醍醐味は、ワンカット風のカメラワークとリアルな戦場体験、そして音響効果である。

まずはワンカットについて。ワンカット映画というと今までは「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」という映画が真っ先に思い浮かんだ。しかしこのバードマンは、あまりワンカットで撮影されている意味が分からなかった印象だった。
しかし今作は、ワンカット風に見せることによって、ウィルとトムが戦場を駆け巡って伝令を伝えに行くリアル感を上手く演出している効果があると思っていて個人的には物凄く納得のいく使い方だと思った。
また、カメラワークにも工夫が見られて、例えば牛小屋でトムが死んで味方連隊に救われたシーンで、トムの遺体を皆で運ぶシーンから建物を挟んでトラックで全員移動するシーン(その時、皆で倒木を排除しようとしていた)に移るあたりの技術や、終盤のウィルが砲撃を受ける戦場を駆け抜けるシーンをどうやってドローンか空撮へ移っていったのかといった技術がとてもカメラワークを色々想像してしまって製作側視点に立って楽しむことができた。

次にリアルな戦場体験について。今作が今までの戦争映画と決定的に違って革新的に思えたことがある。それは、ウマの死骸に集るハエやスーパーラットが蔓延っていたり、桜の木々がへし折られていたり、乳牛が撃ち殺されていたりといった人間以外の動物や植物といった生物にもフォーカスしている点で、これがより戦時中のリアル感を上手く醸し出していたと思った。
私も今までいくつか有名な戦争映画なら観てきたが、ここまで人間以外の生き物にフォーカスした作品はなかったのではなかろうか。そこにフォーカスすることによって、戦場のリアル感や悲惨さ(戦争に一切関係のない乳牛までが殺される)を物語っていて反戦映画として物凄くインパクトがあった。

最後にアカデミー録音賞を受賞しているほどの音響効果。ここまで作品にのめり込めた一つの要因に絶妙な音響効果があると思っていて、「ダンダンダンダン」という戦闘が迫ってくる感じの緊迫した音楽がとても好きだった。敵兵基地でトラップが作動するシーンや、牛小屋のシーンのヒリヒリした音楽で危機が迫ってくるぞ感が物凄いが、あそこまでアトラクションと思わせるほど緊迫感を張り詰めてくる演出がすごくよかった。
また本編ではないが、エンドロールの音楽も非常によくて曲と合間って見入ってしまった。

とにかく、今作は撮影・音響といった演出面で物凄く趣向が凝らされており、この辺りはIMAXで品質の高い状態で体験できて本当によかった。

【Cast(役者・キャラクター)】
今作はあまりキーとなる登場人物がそこまで多くなく、ほぼウィルとトムの二人がメインとなってくる。

ウィルを演じたジョージ・マッケイさんは、物凄く優しそうだけど心の中では芯の強い若き兵士を演じていてとても好印象だった。特に民家に忍び込んで、両親の行方が分からない赤子に牛乳を授けるシーンはとても彼の性格が表れていてよかった。

トムを演じたチャールズ・チャップマンさんは、とても陽気で明るい性格がウィルと対照的でよかった。そんでもって、ウィルを瓦礫で生き埋めになった所から救う仲間思いな部分も印象的。だからこそ、割と前半で絶命してしまったのが辛く悲しかった。敵兵を助けようとしたのに殺されてしまった。ちょっとエグいシーンでもあった。

【Profound(作品の深み)】
この作品の深みは、世界観・演出の部分でも書いてきたが、やはりワンカット風に撮影されて描かれた戦場の圧倒的リアル感である。

戦場をリアルに見せている要因は、①ワンカット風撮影、②銃声が急に飛んでくるなどの戦闘シーンの描写の仕方、③人間以外の動物、生物のリアルな描写である。特にこれらは他の戦争映画と差別化される大きな特徴であるような気がした。
そしてこの作品は、やはりIMAXで映画鑑賞することありきな側面が大きく、あの大画面で高品質な音響で観ないと戦場にいるような感覚にはならないだろう。

ここまでIMAX鑑賞用に仕上がった戦争映画は他にないくらい、映画史に名を残す作品ではあったと思う。
また、ワンカット風映画という側面でもその意味合いや技術力を含めて、今までここまで仕上がった映画はなかったと思う。
そういった意味で、ワンカット映画というジャンルの中においても、IMAX映画というジャンルにおいても、戦争映画というジャンルにおいても映画史に名を残した革新的な作品だといっても言い過ぎではないと個人的には思っている。

【Impression (印象深いシーン)】
まずは、冒頭の方でウィルとトムが鉄条網が破損した隙間を探しに基地から戦場へ出るシーン。IMAX効果で自らも地下から地上へ出て戦場へ出向いた感覚が楽しめて面白かったし、カメラワークが非常によかった。
次に、ネズミが触れることによって作動するトラップや牛農家小屋の何か起こるぞ感を醸し出す緊迫感。もはやあれはアトラクションだと思えるくらいのIMAX体験だった。
個人的に最も印象に残っているシーンが、ウィルが民家に逃げ込んで女性と赤子に遭遇するシーン。常に緊迫感の張り詰めたシーンだったから、ここでは絶対何も起こらないという安堵感を感じられて、それがウィルの心境とリンクしている感じがして良かった。ミルクを渡すシーンはもう最高。
そして最後の、砲撃される戦場の中ウィルが伝令を届けるために駆け抜けるシーン。もう見応えたっぷりの大迫力シーンで大満足のワンシーン。
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