ブタブタ

異端の鳥のブタブタのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.5
悪意は悪意しか生まないし暴力は暴力を虐めは虐めしか生まない。
暴力・虐めが日常茶飯事だった貴乃花部屋力士は他所の部屋に移っても変わること無く暴力沙汰を起こしクビ。
負のエネルギーは負のエネルギーでしかない。
他者に愛されない人間が他者に対して愛や優しさを齎す事は絶対にない。


「反面教師として」「辛い目にあったからその分人に優しく出来る」「虐められた悔しさをバネに」
以上の様な発言をする人間は本当に何も分かってない。
「ナチス」「ヒトラー」「ホロコースト」から学ぶ事など何も無いと思う。
人類の歴史において無ければ無いで、その方がずっとよかった。
『ザ・ボーイズ』S2でも「今だにナチは糞だ!なんて言わなきゃならねえのかよ!」のセリフ。
本当に人類て何も学ばない。

主人公の少年(名前無し)が辿る想像を絶する地獄巡りライド。
火炎地獄・氷地獄・糞尿地獄・性(犯す犯される両方)地獄・そして大量虐殺の阿鼻叫喚地獄。
しかし、この少年の感情の欠落っぷりと環境対応能力とサバイブ技術に不死身さに強運はもはやキリコ(『装甲騎兵ボトムズ』より)である。
殆ど異能生存体。
全9章からなり、その全てが地獄。
ひとつ地獄を乗り越えたら又次の地獄というのも『装甲騎兵ボトムズ:ペールゼン・ファイルズ』を彷彿とさせる。
きっとペールゼンがいたら少年をレッドショルダーにスカウトしてる(そしてそこは更なる地獄!)

少年が最初に辿り着く村の呪術師の老婆が何の根拠もなく「この子は悪魔だ!死をもたらす!」と言ってたけど結果的には当たってた(笑)
少年の艱難辛苦の旅。
少年の願いはたったひとつ「家に帰る」であり、これは冒険物の基本「行きて帰りし物語」である。
少年版『アポカリプト』『MAD MAX怒りのデスロード』
好きな場面は森の中で見つけた脚が折れた馬を少年が連れて村にやって来る場面。
折れた脚を引き摺る黒馬を従えやって来る少年、その不吉な姿、光景はまるで世界の終わりの「先触れ」であり黙示録の騎士の一節「見よ青褪めた馬を。その背に乗りしは死。後ろに地獄を従えん」の様だった(当然この後も酷い事になる)

ポスタービジュアルにもなっている少年が頭だけ出して埋められ、そこに鴉が群がってくる場面。
疫病が蔓延する村で少年も感染し、高熱をだして最早死を待つだけになった時、呪術師の老婆によって前記のインチキ呪いが行われ少年は鴉に啄ままれ血塗れになり、そして何故か治ってしまう。
犬(人間でも)を土に埋め首だけ出して飢えさせ、蛇や虫に集らせて苦しめるだけ苦しめて首をはねると、其れは怨念の塊とも言える「犬神」に変化するという呪術。
少年ももしかしたら、あの呪術によって既に人間では無い、全ての人間を呪う怨念の塊の様な存在に変幻していたのかも。

モノクロ・三時間の大作。
『神々のたそがれ』も宇宙の彼方の別の惑星を舞台に圧倒的な世界と地獄絵図を描いていたけど、『異端の鳥』も人工スラヴ語を使う架空の世界であり、どうやらナチは「ナチみたいな物」でソ連は「ソ連みたいな物」らしい(でもスターリンがいるけど)
そう思うとこれもまた『神々のたそがれ』と同じく異世界ファンタジーでもある。
以下ラストのネタバレ感想。








戦争が終わり廃墟と化した街では闇市が開かれ人々は復興に向けて徐々に希望や明るさを取り戻しつつある。
しかしそんな中でも相変わらず少年に向けられる視線は冷たい。
「このユダヤ野郎!」と自分をぶん殴った男を少年は冷徹に射殺!
この事件を切っ掛けに離れ離れだった父親と少年は再会(人撃ち殺しといて何のお咎めなしなのもすごい)
自分を見捨てた父親、そもそも全ての元凶はこの父親であり(と少年は思う)再会し母の待つ「家に帰る」段になっても決して少年の心には安寧は訪れない。
父親に対して怨み骨髄であり、少年は父親をいつぶち殺してもおかしくない状態。
しかし父親の腕に強制収容所を生き延びた証である数字の刺青を見て「まあしゃあないか」と諦めた様な表情を見せる。
バスの窓に自分の名を書く少年。
之で漸く少年は「名無し」から名前を獲得し人間としての尊厳とアイデンティティを取り戻したという事だと思う。
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