たく

痛くない死に方のたくのレビュー・感想・評価

痛くない死に方(2019年製作の映画)
3.7
一人の在宅医師の目を通して終末医療の在り方を問う話で、原作者の長尾和宏自身が在宅医療のスペシャリストであるためか、患者と医師との関係が非常にリアルに描かれてた。「おくりびと」みたいな職業紹介モノと言えなくもないけど、病院に入ってしまえば尊厳死が選択できなくなるという日本の医療の在り方に鋭く切り込む作品だった。医師としての本分に目覚めていく在宅医役の柄本佑の淡々とした演技が良く、自らの最期をもって彼に医師の責務を全うさせる宇崎竜童もハマってた。宇崎竜童は「BAD LANDS」の曼陀羅も良かったし、年を重ねるほどに魅力が増してる気がする。

在宅医師の河田は患者に対する思い入れが一切なく、ただ事務的に仕事をこなす日々を送り、関係が冷め切ってる妻からは離婚届を突き付けられる。そこに彼が担当してたステージ4のがん患者が苦しみ抜いた末に亡くなり、その娘から思い切り非難されたことをきっかけとして、河田が自分の医師としての在り方に疑問を持つ展開。この序盤の河田の乾いた心の描き方が、見ててイライラするくらい上手かった。河田が先輩の医師に相談し、患者の死因が別のところにあったんじゃないかと気付いて激しく後悔するんだけど、すでに取り返しがつかないところに医師の責任の重大さが示される。

河田が人の命を預かる在宅医師としての責任に目覚めたところから、彼が新たに担当することになった末期がん患者の本多との生き生きした交流が見どころ。身の回りで起こることを川柳で笑い飛ばす本多のチョイ悪な感じが最高で、彼を支える妻との仲睦まじい様子が夫婦の一つの理想のかたちとして描かれる。延命措置を拒否する宣言書であるリビング・ウィルが、いったん入院してしまえば身体中に管を通される日本の延命治療のアンチテーゼとして登場し、自分自身もそう遠くない将来にこの問題に向き合わなければならないと思うと気が重くなる。
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