yuko

地獄の黙示録 ファイナル・カットのyukoのレビュー・感想・評価

4.8

子供の頃この映画が全然理解できなかった。ベトナム戦争の空気感は第一次、第二次世界大戦として教えられてきた戦争と全然違うなとか、アジアの僻地でかのアメリカ軍が何故楽勝で勝利出来ないんだろうと思ってた気がする。


なんなんだ、この妖艶で狂気的で退廃したまぎれもない人間の世界は。愛と狂気の狭間を見た者たちの地獄がそこにあった。それを直視せざるを得ない時、人が人たらざるものになっていく様は正に地獄。理性を、正しくあろうとする心を削られ、苦悩や葛藤の果てに壊れていく人間性。生きるための残虐性と、人たる事を捨てきれない欺瞞。人たる事を降りられない地獄。想像を絶する。人の中に相反して存在する愛と攻撃性が、戦地という恐怖に満ちた特殊な状況でこそ目覚めていく。

アメリカの虚無。祖国から遠く離れたジャングルで、一体なんのために戦っているのか。一体何が正しくて、何のために死んでいくのか。大義も見出せず、虚無の中奪う命、奪われていく命。それが明日も続いていく。出口の見えない地獄。

アメリカ史に類をみない異国の地ての戦いが、若者たちの気力を削いでいった。対するベトナム兵の迷いのない捨て身戦法は、勇敢であり人であることの未練を捨てている。勝てるわけがない。古代の戦士のようだとカーツが言っている。

狂った反逆者をアメリカ軍の名の下に抹殺する、というわかりわすい構図が、徐々にカーツは己を失うことなく己の論理で軍人としての誇りを全うしようとしていることがわかり、混沌さが増していく。結局戦争に意味なんてものはなく、混乱とカオスと主観の押し付けのために人が死んでいく。後半部分は暗い混沌に意味も見出せず飲み込まれていく気分になるが、戦争映画に鑑賞者が気持ち良い結末を求めるなってことなのか。意味なんてねーよって言われてる気がした。
yuko

yuko