消えていったひとたちの思い出をかき集めて、自分を取り戻そうとする。けれどきっと彼は、そんな感情すら覚えていない。ただなんとなく、空っぽの身体のまんなかあたりがきゅっとなったりあたたかくなったりする理由を探している。
だから彼女を恋しく想うのは(なんだろうこのふわふわした心地は)、必然だった。
希望にむかって飛んでいった彼らの夢を、わたしも見る。だれがなんと言おうと、ロマンチックを揺蕩う。ようやく絡まり合った世界にさようならを告げることになったとしても。
チェシャ猫みたいだった彼。迷い子を優しく導いた彼。
『♪この俺は摩訶不思議。魔力を持った猫だ。そこらの奴とは偉さが違うよ。』
そうだね。とってもとってもえらかったね。迷子だったのはあなた自身だったのに。
きっとあなたからは、なんの匂いも味もしないのだろうな。それがわたしを、とても哀しくさせたんだ。
