朝田

マザーレス・ブルックリンの朝田のレビュー・感想・評価

マザーレス・ブルックリン(2019年製作の映画)
3.0
衣装、音楽(トムヨークが参加!)、撮影。全てにおいて50年代のニューヨークが精密に再現される事で、圧倒的な没入感を与える。ここにノートンのノワール文学、映画へのリスペクトの本気さをひしひしと感じられる。同時にこの作品は現代性ももたらしている。通常フィルムノワールは主人公の造形が所謂タフガイで、マッチョイズムに溢れた男として描かれる事が多い。しかし、本作の主人公は過敏に神経質なチック症の患者なのだ。社会に馴染めないマイノリティとして描かれ、その虚弱なイメージが非常に新鮮。そんな彼が、同じようにマイノリティとしての感情を共有するヒロインと出会い、マイノリティを弾圧する敵を倒し、事件を解決していく。50年代の作品でありながら、普遍的に現代にも存在するあらゆるマイノリティの人間たちの復権を描く物語でもあるのだ。演出的にも見所はある。特に印象的なのは反復される手元のカット。最初は血のついた手元や、彼の病の深刻さを語るセーターの袖を過敏に触れる手元など負のイメージをもったものとして存在している。しかし、後半部の手元のカットでは、ノートンとヒロインとの手が触れあう、幸福なイメージをもった画に変化していく。このようなノートンの監督2作目とは思えない演出も光る。しかし、全体を通して手法的には目新しいものは見当たらないため、映画としての興奮には欠ける。また、ノートンの脳内を再現した映像は、ノイズやスローモーションなど妙に技巧が施された画面になっており、細部まで作りこまれた全体のトーンからすると浮いてしまっているのは気になった。
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