ペイン

街の上でのペインのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.3
本作出演の萩原みのりさんが、今泉作品の魅力・特徴として挙げていた「人間一人一人に愛着が沸くというか、本当にそこに生きている感じがする。どこにでもいそうなんだけれど、でもみんな少しだけ変。何かが1㌢とかじゃなくて0.5ミリくらいなんだけれど、何かが少しズレていて、でもそれが愛おしいと思わせてくれる」という言葉がまさに今泉作品の本質であり、MAXな表現だと思う。

あとに続いて萩原さんは、「今泉作品の世界線ではちょっとでもお芝居をしようとしてすると浮いてしまう」ということも言っていたが、本当にそれくらい今泉作品に映るものはすべて実在感が半端じゃない。本作は特にその骨頂とも言える。

商業を強く意識して製作された『愛がなんだ』より遥かにミニマムな作りの、これぞ“THE ミニシアター映画”だが、私はたまたま近場で上映されていたのでシネコンで観たが、出来ることならばこういう作品こそ都内のミニシアターで観たかった。

監督が意識したと仰っていたアキ・カウリスマキやジム・ジャームッシュ作品のテイストは勿論のこと、同じ邦画でいうと『の・ようなもの』や『横道世之介』、山下敦弘監督作品を思わせるような余白の多さで、数多の映画ではカットされてしまうような“そこ描く?”が満載な1本だが、不思議とずっと観ていたくなる旨味成分がそこにはギュっと詰まっている。

主演の若葉竜也さんは『葛城事件』や『美しい星』等、登場した瞬間から厭なバイブスを発散しまくるような“曲者”のイメージが強かっただけに、これほど純朴で受け身な青年も体現出来るのかと心底驚かされた。その他、萩原みのりさんはじめ女優陣の皆様も最高だったが、特に城条イハを演じた中田青渚さんの可愛らしくも飾り気のない出で立ち、兵庫弁全開なる様に心鷲掴みにされてしまった。あと、序盤と終盤で出てくる全く同じ話をするおまわりさんが無茶苦茶効いていて、それによって文字通り“後押し”される穂志もえかさん演じる雪の描写も◎

“すでに失われてしまったが、たしかにここに存在していた街並みと人々の営み”…しばらくその余韻にずっと浸っています。



P.S.※ネタバレ
終盤の群像劇ならではの大団円、その怒濤のクライマックスはラブコメ大傑作『ラブ・アゲイン』を彷彿。
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