Iri17

街の上でのIri17のレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
5.0
アメリカの作家ジャック・ケルアックの『路上』という小説は一つの場所に留まらずに自由気ままに旅をして生きる人たちの生き様を描いた小説だ。

この映画は対照的に、一つの街の上で生きる人たちを描いている。

道は走り抜けていくが街は残る。街は残り、そして変わっていく。
道が人生であるなら、街は想いだ。大切な人への想い、記憶、愛、それらはいつかは人の死と共に消えていくけど、すぐには消えないし、死んでも受け継がれてどこかに残っていくものだと思う。

青の出演シーンは映画からカットされた。誰も見ることはない映像となった。
残らなかった映像はイハの記憶に残った。映画の出演のための練習は田辺さんの記憶に、出演を依頼したけどうまくいかなくったことは高橋監督の記憶と経験に、共演したことで知り合った売れっ子俳優にはほろ苦い失恋の記憶として残った。

もし出演をしなければ、イハや田辺さんとの友情はなかった。残らなかったものは行動したことで誰かの記憶に残ったのだ。

街が不必要なものを失くして、新しいものを作っていくように、映画が不必要なシーンをカットしてより良くしていくように、人はどんどん前進していく、それでも大切なものは忘れられなくて、雪は青を思い出すし、亡くなった古書店の店長をみんな思い出す。

今泉監督の作品に漂う死の香りは、決して冷たいものではなくて、誰かが誰かを想うことの温かさがあって、前に進む強い意志がある。

前に進むことは忘れることじゃなくて思い出すことだ。思い出したうえで前に進む。街には人が、人には街が必要で、それは人には記憶が必要だということに似ている。

今泉力哉監督の作品で一番好きな作品になった。
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