Hiroki

街の上でのHirokiのレビュー・感想・評価

街の上で(2019年製作の映画)
4.1
やはりレビュー書き残しの中ではこの作品も書かなければと思い年内駆け込みレビューを。

今泉力哉はコロナでの延期もあったけど今年劇場公開が3作品。
単独脚本という形の少ない今泉さんだからこそできる芸当ですね。
3作品とも良かったのですが、やはりこの作品が私的にはベストでした。

これは簡単にいうとジム・ジャームッシュです。
130分間ほとんど何も起こらない。
オフビートの会話劇が永遠と続きます。
(何も起こらないオフビートの会話劇を私はジム・ジャームッシュと呼ぶ。)
ひとつだけ文句を言わせてもらうなら若干長い。
この手の話を撮るなら120分以内にして欲しかったです。
あとは固定カメラで動きのない映像が多いのもぽいですよね。
“街”というテーマの選び方も少しジム・ジャームッシュしてるなーと思いました。

しかし下北沢って本当に特殊な街ですよねー。
東京に住んでる人ならある一時期凄い惹かれる時期があるんじゃないかなー。(別にそんな事もないのかなー…)
私も一時期通っている時期がありました。
でもその時期を過ぎるとパタっと行かなくなる。
なんか青春みたいな。
今年の夏に久しぶりに行ったら全然違う景色に変わっていましたね。

最近この感じの邦画が多くてサブカルとかシモキタとか苦手なんだよなーという方々、良くわかります。
今作も序盤から曽我部恵一のCCCとか、ヴィム・ヴェンダースとか、南瓜とマヨネーズとか、GEZANのマヒトゥさんとかバンバン出てきて「またそれですかー」と思うかもしれません。
『ゾッキ』の大橋裕之共同脚本。なるほど…

ただこの物語の非常に面白い点は主人公・荒川青(若葉竜也)のキャラクター造形です。
ほんの少しだけデフォルメされてる感はあるのですが、めちゃくちゃ繊細に作り込まれています。
優しくて、決断力がなくて、周りに流されやすくて、野心も特になく、その日が楽しければ良い、友達や知り合いはたくさんいて、でもそこまで深い人間関係にはならない、空気を読むのが苦手で、踏み込んじゃいけない所に気づかず踏み込んでしまう。
そーいうどこにでもいるような人間を若葉竜也が完璧に演じている。
もー若葉竜也はこの所ずっと良いんだけど、今作は特に素晴らしい。
なんかずっと密かにツッコんでる所とか。大仰なツッコミじゃなくて密かなツッコミという所がまた良い。
あとは間の取り方が絶妙。
映画ではなく普通の日常に近い間の使い方をしてます。
いつも映画観てる人からすると少し違和感のある間。でもジム・ジャームッシュはこれだろ!という。(ジム・ジャームッシュじゃないんですけどね。)
これは若葉くんに限らず他のキャストに関してもだったのでたぶん今泉さんのこだわりかな?

あとはもう1人、城定イハ役の中田青渚が素晴らしい。
この作品はヒロイン的なキャラクターがたくさん出てくるんですけど、中田青渚が頭ひとつ抜きん出てました。
なんか観てから時間がだいぶ経つんですけど正直中田青渚のシーンしか思い出せないんですよね。
そのくらいとても印象的で輝いて見えました。
今泉さんの『あの頃。』とか『ここは今から倫理です。』でも良かったけど、さらにどんどん良くなっていく感じがしてます。
これから大注目です!

もーこの2人の会話を聞いてるだけで最高でなんですよねー。
いろいろな感情が自分の身体の中をぐるぐるして、新しい感情が湧き上がってくるような。
「何も伝えたい事がないけど何かを作りたいと切望している。」
と話していた今泉さんの真骨頂という感じでしょうか。

劇中で城定イハが「城定秀夫の城定」と名乗るシーンがありましたが、今泉さんの次回作は城定秀夫監督とのコラボ企画でお互いに監督と脚本を入れ替えて作った『猫は逃げた』(監督が今泉、脚本が城定)、『愛なのに』(監督が城定、共同脚本が今泉)です。
もともと「R15+の映画」というテーマもあったみたいで、今泉力哉の撮るR15+今から楽しみ!

2021-130
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