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アフター・ヤンのたくのレビュー・感想・評価

アフター・ヤン(2021年製作の映画)
3.6
AIロボットの故障がまるで一人の人間の死のように描かれる近未来のSFで、静かな映像と音楽がコゴナダ監督の前作「コロンバス」を髣髴とさせる。すごく地味な話で何を言いたいか良くわからなかったけど、AIロボットやクローンが日常の中に当たり前に存在するという将来実現するかもしれない世界で、彼らの生き方をどう捉えるべきかを問う話かなと思った。

肌の色の違う夫婦に中国人の養子という属性混合の家族がいて、その娘の世話をさせるために人間そっくりのAIのヤンが兄として同居してる。夫のジェイクがお茶の専門店の店主で、娘が中国人なのは彼が中国文化に傾倒してるからなんだろうね。話が始まって割とすぐにヤンが故障してしまい、ジェイクが何とか彼を直そうと奔走するんだけど、法律の壁が邪魔してタライ回しにされるのが現実にもありそうな展開。娘がヤンを慕ってて、彼がなかなか直らないのを嘆く姿を見てジェイクが困り果ててるのがなんとも辛かった。

ヤンが一般のテクノ(=AIロボット)にはない高度なメモリ機能を持ってることが判明し、メモリチップからまるで小宇宙のような記憶の森を辿っていく神秘的な映像演出が秀逸。そこでジェイクの知らないヤンの過去が明らかになっていき、エイダという謎の女性の存在からある事実にまで至る。ヤンがエイダに事実を言わなかったのは、ヤンにとってエイダがクローンであろうとなかろうと関係なく大切な存在だったってことなんだろうね。このエイダ役のヘイリー・ルー・リチャードソンは「コロンバス」に引き続くコゴナダ監督作の出演。カイラ役のジョディー・ターナー=スミスは「クイーン&スミス」のクイーンか!

ジェイクとカイラがそれぞれヤンとの会話を回想するシーンで、別アングルで同じセリフが2回繰り返される意味が分からなかった。ジェイク一家がヤンの喪失を受け入れて前に進む感じの幕切は唐突。坂本龍一とアスカ・マツミヤの音楽が本作の静けさに寄り添ってるのが良かった。
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