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オルジャスの白い馬のhasseのレビュー・感想・評価

オルジャスの白い馬(2019年製作の映画)
3.6
演出4
演技4
脚本4
撮影4
照明3
音楽3
音響3
インスピレーション3
好み4

初めてのカザフスタン映画。
中央アジアの広大なロケーション、主人公たちの慎ましい生活の描写、飼い馬を巡るいざこざといった要素は、カザフスタンの隣国キルギス映画『馬を放つ』に共通しており、似通った作品に見えなくもない。だが、『馬を放つ』が失われつつある遊牧民族のDNAとその継承の問題を描いているのに対し、こちらは再会した父子の心の交流を然り気無いタッチで描いた、より普遍的な作品だ。

何よりもまず圧巻なのは、ワイドスクリーンいっぱいに広がるカザフスタンの山々と草原の風景。道路が一本走っている以外は手付かずの、果てがない大自然。この風景のショットは「ずるい」と思う。ワンショット置くだけで容易く画になり、人々を惹き付け、唸らせることができる。でもそれは、大自然の破格のスケールが、映像作品のスケールをたちまち掌握してしまうことを意味している。私はワンショットにおさめられた大自然の風景に対して無力だと感じる。

公式ホームページの監督のインタビューによると、本作品はソ連崩壊後の90年代の、カザフスタンの田舎を舞台としているらしい。田舎の少年の無垢さや平和な生活は、父親の殺害や村八分といった周囲の悪によって奪われる。少年が見る夢は無垢を象徴する白色に覆われているが、壁にトマトを投げつけて鮮烈な赤色が白色を汚すのは、これまでの現実の崩壊を示唆しているのかもしれない。

不安や不満を鬱々と抱えながらも、少年は大人へと成長していく。それを促すのは刑期を終えて戻ってきた実父カイラートである。少年は彼の正体を知らないが、自然と懐き、互いの才能を認め合う対等な関係を築く。そして最後の夢で少年は、カイラートと母親が食卓を囲む幸せな夢を見る。それはこれまでの夢と異なり現実世界と地続きのようなはっきりとした夢だ。

私は中央アジアへの馴染みが薄く、どの作品も似たようなテーマ性をもっていると先入観で観てしまいがちだが、それは反省。
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