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今宵、212号室でのakrutmのレビュー・感想・評価

今宵、212号室で(2019年製作の映画)
3.9
学生とのアバンチュールを楽しんでいる大学教員マリアが、夫に浮気がバレたのをきっかけに、自分の生き方を見つめ直そうとした時に起こる不思議な出来事を、ファンタジックにコミカルに描いた、クリストフ・オノレ監督の恋愛映画。映画監督だけではなく、作家、脚本家、舞台監督など多彩な活躍を見せるオノレ監督が、重いテーマの前作『Plaire, aimer et courir vite』の後に、もっと単純に楽しめて、キアラ・マストロヤンニを起用したいと思って製作したのが本作である。映画のほとんどは、夫婦のマンションの部屋と、道を挟んで向いにあるホテルの一室でのシーンなので、舞台として上演しても面白いかもしれない。

ある意味でタイムトラベルものと考えることもできるだろう。でも、タイムトラベルした側の視点ではなく、タイムトラベラーを迎える側の視点で描かれるというのは、一般のタイムトラベルものと異なるかもしれない。25年前の若い夫や、夫の初恋相手である年上のピアノ教師などが出てきて繰り広げられるストーリーは、気楽に楽しむことができる。マリアは、若い夫の姿を見て、過去の自分の想いを取り戻そうとするが、一方で、単なる若い男好きのようにも見えるし、そんな掴みどころのないマリアをキアラ・マストロヤンニが身体をはって素敵に演じている。夫のリシャールのほうも、過去の恋人や過去の自分を見て、年齢を重ねるにつれてつまらない自分になってしまったことを自覚していく。そんな心情がタバコで上手く表現されているし、バックにかかる軽快なシャンソンの数々も魅力的。全体的に質の高い映画と言える。

リシャールを演じているのが、キアラ・マストロヤンニとかつて夫婦だったパンジャマン・ビオレというのも面白い。元夫婦が不仲の夫婦を演じるということになる。若い頃のリシャールを演じたヴァンサン・ラコストは、『アマンダと僕』の演技が印象的な注目の俳優であり、本映画でも良い味を出している。また、ピアノ教師イレーヌ役のカミーユ・コッタンは、フランスの人気ドラマ『エージェント物語』で主役を演じて、近年、国際的に注目されている。
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