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きっと、またあえるのEDDIEのレビュー・感想・評価

きっと、またあえる(2019年製作の映画)
5.0
前を向くことすら困難になるときがある。時には敗北を経験することが糧となる。負けてもいい、ただ挑戦することが重要。共に闘う仲間や認めてくれるライバルがいる、ただそんな日常が幸せ。“生きる”喜びを教えてくれるインド映画の傑作。

いやぁ大好きなやつきました。インド映画はそんなに沢山観てないんですけど、やはり世界に配給されてる作品ってのは自ずと質が高いわけで本作も例外ではありませんでした。
私映画ってどんなメッセージを伝えようとしているかってのが凄く大事だと思っていて、本作って実は現実的な見方をすると結構無理ある設定が多いんですよ。だけど、そんなことはどうでもよくて、観終わった後の爽快感がたまらないなと。

本作はインドの学歴戦争を如実に表した作品で、主人公の息子が受験戦争に敗れ、そのショックから立ち直れず自殺を図ってしまうんですね。100万人も受験して受かるのはたった1万人という難関大学の世界。不合格というだけで失敗の烙印を押されてしまったかのようになってしまうんですね。きっと想像を絶するぐらいの絶望感なんでしょう。

で、主人公のアニを演じたのがスシャント・シン・ラージプート。自殺を図る息子ラーガヴの父親ですが、彼は昏睡状態の息子にエールを贈る意味で自身の学生時代の思い出話を始めるのです。
本作の学生時代の話はニテーシュ・ティワーリー監督の実体験を元にしているそうですが、受験の成否が生死をかけた問題であるというのも社会問題の一つなんですね。実際に統計的にも受験で失敗した学生が自殺を図る数は限りなく多いと言います。
そんな現実問題を変えようとしたティワーリー監督のメッセージだと感じました。

アニは成績優秀で運動神経も抜群、ルックスもいい。夢の名門ボンベイ工科大学への入学が叶ったと思いきや、“LOSER”の集まりと化した4号寮に配属。建物はボロボロで、学食も食べられたもんじゃない。こんな所にはいられないと栄光の3号寮へ転属を申し出ますが、そんなに簡単に事は運びません。
ただその4号寮で出会った個性的な同僚たちが生涯大切な仲間になっていくんですね。

息子ラーガヴの状態がなかなか上向かない中でも希望を持って昔の仲間たちに声をかけ、息子に大学時代の大切な仲間たちや出来事を話しながら、並行して大学パートを映し出すという展開で物語は進行します。
変態キャラのセクサ、口の悪いアシッド、マザコンのマミー、みんなの兄貴分デレク、アル中のへべれけ、そして今別居中の妻で大学時代の恋人マヤと、個性的で魅力的なキャラクターたちが作品を彩ります。
冒頭の水かけ合戦なんて、ここまでではないにしても学生時代ってアホやったよなぁとちょっとした懐かしさにはにかんでしまうシーンもあり、喜怒哀楽の感情が忙しく揺れます。

学業だけではなく、大学の一大イベントであるGCことゼネラル・チャンピオンシップが本作のメインパートとして動いていきます。
栄光の3号寮は毎年優勝候補なのに対し、4号寮は過去15年すべてビリ。“LOSER”の名前の通り、勝つことを放棄したかのような絶望的な弱さだったんですね。
そのGCで優勝を目指そうと一致団結したLOSERたちですが、これまたそう簡単に勝てるわけではありません。それぞれが力を合わせたり、自分の大切なことやものを我慢する誓いを立てたりと徐々に団結力も増していくわけです。

この作品で素晴らしいなと感じたのは、現代パートで息子と関係性良好ながらも逃げ道を作ってあげられなかった父アニの後悔と仲間たちを巻き込みながらも“生きる”ことの至極当然な摂理の大切さを思い出していく過程です。
妻ともすれ違い別居中ということもあり、日々の仕事に忙殺され、学生時代に培った大切な真理を忘れかけていたんですね。
それに気付くのが息子の死に直面した事故がきっかけというのも何とも救い難いのですが、一歩間違えれば死んでいてもおかしくなかったわけです。どんなに大変な時でも本当に大切なものを見失ってはいけないというメッセージとして受け取りました。

ヒロインのマヤを演じたシュラッダー・カプールの美しさもハリウッド女優に引けを取らないほどで釘付けになりました。

バカみたいにおちゃらけたシーンも多いんですが、それぐらい気楽になっていいんだと感じさせられましたね。
人生に行き詰まったとき、この映画を観るときっと前を向けるんじゃないかと思わされる傑作でございました。
ラストエンドロール前のインドならではのダンスシーンもあり、感動で涙するシーンもあり、最後の最後まで大変楽しめました。

私事ですが、数ヶ月ほど前まで仕事でだいぶ精神を削られていてかなり体調も崩していた時期があったんですね。今は退職も転職も決まり気持ちは好転したんですが、そんな直後にこの作品を観たもんだから、めちゃくちゃ心に刺さりました。映画って観る時期とか状況でもだいぶ感じ方って変わるよなぁと再認識した瞬間でもありました。

最後に余談になりますが、主演のスシャント・シン・ラージプートさんは今年の6月に急死したとの報道がありました。自殺だとのこと。本作への出演がありながら、自ら死を選んだということに驚きが隠せませんが、本人はどれほど苦しんでいたのでしょうか。苦しみは本人のみぞ知るですが、本作で素晴らしい活躍と魅力を放っていただけに残念でなりません。今更ですが、ご冥福をお祈りします。

※2020年劇場鑑賞106本目
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