ぺんじん

WAVES/ウェイブスのぺんじんのレビュー・感想・評価

WAVES/ウェイブス(2019年製作の映画)
4.0
うーん、これは評価が難しいな…ストーリーは全然好きでは無いんだけど、それ以外の部分が滅茶苦茶良いんだよな…
ストーリーは特に前半部分が全く好きでは無くて、ヘビーな内容ではあるのだけど個人的には全く真剣に受け止められなかった。エリート青年の苦しみと家族との軋轢が描かれてるのだけども、家族構成も含めてあまりにもテンプレートをなぞり過ぎな感じがする。厳しい父親に優しい継母。兄思いだけど、距離感がある妹。名門大学のレスリング部に鬼のようなコーチ。大好きな彼女とのお決まりのトラブル。結末が結構ヘビーだから衝撃的なストーリーと受け取る人が多いかもしれないけど、似たような話は金八先生とか昔の学園ドラマで散々出てきているし、今更こんなストーリーで青年の苦しみを描くのはちょっと無理があると感じてしまった。あと青年が破滅に至るまでの考えと行動があまりにも直線的なのが凄い気になる。良いところのお坊ちゃんだから、もうどうにでもなれ!という気持ちと良心との葛藤で揺れ動くはずなのに、ほとんどそれが見られないのはどうなのか?アフリカ系青年の話でいえば『ムーンライト』や『クリード』だってそういう心の動きは描かれていたし、ちょっと歪だけどレスリングでいえば『フォックスキャッチャー』だって挫折したエリートの男たちの話だった。そういった心の揺れ動きをすっ飛ばして、挫折→苦悩→衝突→破滅という直線的なストーリーはちょっと受け止められなかった。妹が映画の後半で言ってるけど、これじゃただの悪魔・モンスターじゃないのか?
それでも後半に妹に視点が移ってからのストーリーは良かった。前半から一転ゆったりとした雰囲気に変わるけど、厳しい状況に陥った家族の再生が、あまり感情的になり過ぎずにしっかりとしたリズムで描かれているのが良かった…でも、家族の問題を別の家族の問題をきっかけにして解決しようとするのは個人的には好きではないんだよな…あと妹は凄い魅力的に描かれてるけど、妹と比べるとお兄ちゃんの描き方マジで雑じゃない?雑ならお兄ちゃんパートもっと短くて良くない?
まぁストーリーについてはなんやかんや言ってしまいますが、映像表現と音楽の使い方はとても素晴らしかった。冒頭の車の中グルングルンカメラから始まって、それぞれの撮影方法とか照明の使い方、そして音楽の使い方がそれぞれの場面にバッチリハマっていて、主人公それぞれの感情の揺れ動きを表していて素晴らしかった。劇中に出てくる音楽の歌詞がもっと分かればなと後悔。画面のサイズも変えているし、不思議なグラデーションの映像が差し込まれていたりと、構成がかなり綿密に考え込まれていて素晴らしかった!広角で撮影した映像と音楽で物語をグングン前に進ませていく感じがまさにテレンス・マリックという感じがしたんだけど、本当にテレンス・マリックのアシスタントだったみたい。クリスチャン・ロックが出てくるあたりとかはまさにキリスト教的な贖罪や赦しの話だし、頑固親父との話でいけばまさにテレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』と似たようなテーマとストーリーだなぁと感じる。インスタ世代のテレンス・マリックだ!
お兄ちゃんの話があまりにも他人事なのが気になるし、もうちょっと前半と後半の繋がりを映像で上手く見せて欲しかったのもあるけど、映像表現と音楽の使い方の素晴らしさには惚れ込んでしまうよ、これは!
ストーリーは嫌だったけれど、次回の監督作は絶対観ます!あと『ヘレディタリー 継承』も観ます!
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