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シンクロニックのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

シンクロニック(2019年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

親友同士でもある救急隊員のスティーブとデニスが急行した事故現場で、シンクロニックと呼ばれる新種の違法ドラッグが発見される。そのドラッグがもたらす幻覚作用が事故の原因になったと判断された後、デニスの長女ブリアナが失踪する事件が起きる。彼女の失踪とドラッグが関係しているとスティーブは推理するが…。

タイムトラベルを描いた作品は数多くあるが、何とドラッグを服用することでタイムスリップするというアイデアが斬新で秀逸。
ドラッグで飛ぶことを「トリップする」というが、本作はドラッグで時空を旅する。
二重の意味で「ぶっ飛んだ」設定のSFスリラーの佳作だ。

新種ドラッグを若者たちが服用した直後、周りの景色がジャングルや砂漠などあり得ない場所に変わる。
蛇に襲われたり砂漠に落下するのは、きっと幻覚作用の演出だろうと思っていたら、タイムスリップした場所の景色だったとは…!

連続して発生する若者の変死や行方不明の現場にはいつもシンクロニックの包みが残されていた。
デニスの長女ブリアナも服用していたことから、スティーブは薬の出どころを追う。
シンクロニックは作った科学者本人が、あまりに危険だと回収していた。
手に入れたシンクロニックを手掛かりをつかむため服用したスティーブは、ドラッグには別の時代に7分間だけタイムトラベルする効用があることを知る。

恐らくブリアナは過去に取り残されていると睨んだスティーブはタイムスリップの論理を研究する為に、常に少しずつ立ち位置をスライドし、場ミリながらタイムスリップを試す。
僅かなズレで場所が変わるが、成分の配合のせいなのかタイムスリップする時代が同じなのが興味深い。

デニスはブリアナがいなくなったことで妻との関係が悪化。
スティーブは脳腫瘍を患い、余命幾許もない身だったが、残された余命を親友デニスの娘ブリアナを過去から連れ戻すことを決意する。

ドラッグを飲んだ人が何かを持っていれば、それも一緒に移動できるのを発見したスティーブは、愛犬ホーキングを連れてタイムスリップするが、過去の人間に襲われ、愛犬は過去に取り残される。
朧気に残像として見える愛犬との窓越しの別れは、なかなか離別の情感が籠もっていた。
それが最後の伏線として効果的に活きる。

しかし、これでブリアナ(生命体)も連れてタイムスリップできることが判明。
彼女が消えたとされる場所でタイムスリップをすれば、きっと巡り会えると推理するが、そこがなかなか分からない。
ドラッグも残り僅かとなり、焦るスティーブ。
病状も悪化していき、追い詰められていく演出に胸が苦しくなる。

デニスはスティーブの腫瘍のことを知らず、スティーブが鎮痛剤を飲みすぎることを心配して喧嘩してしまうが、腫瘍を告白し、ドラッグと実験のことを説明。
父親として自分が捜しに行きたいデニスだが、脳の松果体の問題でスティーブしか行けないと分かり、スティーブに託す。

家族との思い出の場所にある岩に座り、最後のチャンスに賭けるスティーブ。
移動した先の南北戦争の戦場で、塹壕に避難していたブリアナを発見。
最後のシンクロニックをブリアナに飲ませるが、スティーブは戻れずに過去に取り残される。
死を覚悟するスティーブの残像と、デニスは別れの握手をして映画は終わる。

残念ながらSFとしては、薬の効果に対する科学的な理屈や詳細は一切説明がないのが最大の難点。
過去に行けるのなら、未来に飛んでもおかしくないのだが。
それを受け入れるかどうかで、賛否が分かれるだろう。

新種のドラッグでのトリップ状態と悲惨な死を招く若者の姿は、ドラッグがいかに危険なモノか、見る者に思い知らせる演出として効果的だ。

謎のドラッグと行方不明の知人を探す主人公の推理は刑事モノのようなサスペンスがあり、論理的思考に基づいたタイムスリップの検証実験は、SFとして成立していて興味深い。
タイムスリップの度に時空を超える負担のせいか?ボロボロになる服や時計などなかなか芸が細かい。
何より余命僅かな人間が誰かのために生命を懸ける姿はドラマとして感動的だ。

理屈ではなく、展開でグイグイ魅せるSF。
地味ではあるが、実験精神に溢れた作品である。
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