ヤマ

約束の宇宙(そら)のヤマのレビュー・感想・評価

約束の宇宙(そら)(2019年製作の映画)
3.5
欧州宇宙機関(ESA)で日々訓練に励むフランス人宇宙飛行士のサラは、ある日「プロキシマ」と名付けられたミッションのクルーに抜擢される。念願が叶い喜ぶサラだが、同時にそれは宇宙に旅立ち7歳の娘ステラと1年間離ればなれになることを意味する。過酷な訓練に臨みながら、シングルマザーのサラは不安を募らせる娘と向き合っていく。

物語ではひとりの女性が自身の夢と娘に対する愛情の間で葛藤し、置かれた環境で様々な性差や壁を乗り越えるべく苦闘する様が描かれる。きわめて現代的なテーマが含まれ、広く社会で活躍する女性への賛歌にもなっている。

一方では死と隣り合わせの宇宙飛行士という特殊な条件が物語にもうひとつの階層をもたらしている。娘ステラは母性そのものが存在しない世界に取り残される不安を抱く。それでもいつか訪れる本当の別れの予見として母親の旅立ちを健気にも受け入れていく。それは母親サラがひとりの人間であることや自身の自立をステラが幼いながらに意識し始める過程であるように思われる。

静謐さを感じる映像美もまた印象に残る。宇宙空間を予期させる機能的な訓練施設の冷たさと対になる母娘が過ごす時間の温かさや優しさが映像を通して伝わる。
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