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スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのGKのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

何度も泣かされた。
それは、このスパイダーマンが、様々な側面で「救い」の話だったからだ。

まず言うまでもない救いは、過去スパイダーマン作品のヴィラン達にリスタートの機会が与えられたことだ。
正義に焦点が当てられているMCUではない過去作のヴィラン達は社会の歪から生まれており、必ずしも本人の悪意により生まれた存在ではない。
そんな彼らは、過去作内で悲しい最期を迎える場合が多いわけだが、それを救ってしまったのが「No Way Home」だ。
彼がが犯した罪がなくなるわけではない。しかし悪意のもととなる要素を除くことでやり直すことが可能になった。
元の世界に戻った後にどうなったかが語られるわけではないが、彼らなりに「より良くあろう」としているはずだと思う。

2つ目は過去作のスパイダーマン達(サム・ライミ版2作品、アメージングシリーズ2作品)への救いだ。
過去作において、それぞれのピーター・パーカーは後悔してもしきれないほどの失敗をしている。
トビー・マグアイアのピーター・パーカーはおじさんを殺した犯人を怒りに任せて死なせてしまったし、アンドリュー・ガーフィールドのピーター・パーカーは彼女のグウェンを助けられなかった。
死なせてしまった人たちを生き返らせることはできないし、過去の行動をやり直すことはできない。
しかしトム・ホランドのピーター・パーカーの世界で、教えを伝えたり、別の人を救ったり(MJ)、より良くあるための機会が与えられている。

そして大きな観点で言えば「スパイダーマン」という枠組み自体への救いにもなっている(かもしれない)。
スパイダーマンはマーベル・スタジオが権利を持っているわけではない。
かつて業績が悪かった際にSONYに権利を売ってしまっていて、それで作られたのがトビー・マグワイア版スパイダーマン
近年権利を分割しMCUの世界にスパイダーマンを登場させることができるようになったので、トム・ホランド版スパイダーマンが生まれた。
そんな権利関係がぐちゃぐちゃの中で、よく今回のスパイダーマン3シリーズ合流作品が作れたと思う。
特に不遇なのは2作品で終わった「アメージングスパイダーマン」だが、マルチユニバースという設定によって、存在自体が肯定された。
アンドリュー・ガーフィールドの劇中セリフ「I love you guys」はアドリブらしいが、そういった複雑な背景もあり思わず出た言葉なんだろう。

改めてまとめると、総じて「救い」の話だったということだ。

キャンセル・カルチャーで退場した人たちは、再度、表に出てこれない世の中になっている。
しかしそれでいいのだろうか。キャンセルカルチャーの行き着く先は、誰もリスクを取らない世界、面白みのない世界だろう。
では過去の過ちを肯定すればいいかというとそういうことではない。
マイナスが0になるということではなく、マイナスはマイナスのまま変わらず、やり直しの機会があり何か別のことでマイナスの対となる良いことをする。良くあることではないだろうか。

『No Way Home』は、そんな社会性/批評性を持ったMCU節を持っている。

一方で結末はスパイダーマン節とも言える「孤独」と「自己犠牲」、そして「罪悪感」。
その選択はつらすぎるよ…と思ったが、劇中のとあるシーンを思い出した。


トビー・マグワイアがアンドリュー・ガーフィールドに「彼女は?」と聞かれたシーンだ。
トビー・マグワイアは(確か)こう答えた。

「複雑な関係で。ただ僕らにとってベストな関係を見つけたんだ。」

スパイダーマンとはつらい運命を背負わされ続ける存在なのかもしれないが、それでも「より良い」形になれるよう進み続けることはできる。
年を重ねたトビー・マグワイアスパイダーマンがそれを教えてくれた。
それもまた、1つの「救い」だろう。

ここまで短期でスパイダーマンシリーズとMCU作品を合計15作品観た上で本作を鑑賞したが、大正解だった。観てよかった。
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