たけうち

ファースト・カウのたけうちのネタバレレビュー・内容・結末

ファースト・カウ(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

西部開拓時代のオレゴン州の、まだまだ物資の流通が整っていない環境で開拓民たちは発展途上な農業や狩猟を行い、みなギリギリで日々の糧を得ていた頃の話です
その土地に1頭の乳牛がはじめて持ち込まれるのですが、2人の男が夜な夜なその乳牛の乳を搾って、しぼりたての牛乳を盗み出し、それを使ってまだこの地では誰も口にしたことのない、とびきり美味しいドーナツを揚げて市場で販売し、その味が大評判となります
しかし評判を呼ぶということは、注目を集めてしまうということ
結局二人の男は、牛乳泥棒を働いていたことがバレて追われてしまいます
それがこの映画のストーリーの全てで、見終わって回想すると、話の規模や悪事の盗みの内容のちっちゃさに驚きます
観ている最中は盗みが発覚しないかめちゃくちゃハラハラするし、ドーナツの美味しそうな描写によだれが出そうだし、二人の息の合った商売のやり方も、その前の出会いから仲良くなる流れも、終盤の絶望の逃避行も、心が千々に乱れる気持ちになりました
二人にあまりにも肩入れしたくなるから!
自分はとても好きだけど、つまらんと思う人も話のちっちゃさに首を傾げる人もいるかも知れない
この映画を貶されたらショック過ぎるから、だからどこかにこっそり隠しておきたい、そんな映画です

ところで自分は、男性同士の恋愛をエンタメ的に描いた作品などが好きな、いわゆる“腐女子”なのですが、この作品にも腐女子が大喜びするそれを感じました
ドーナツを作るための牛乳泥棒バディの片割れ
通称“クッキー”は、ひょっとしたらなのですが
“恋愛対象が男性の男性”もしくは“性自認が女性の男性”のように感じました
二人が初めて出会ったシーンでの献身的な気遣いや、家に招かれた時に自然に掃除などする様子、牛乳を盗む際にも乳牛に向かって優しい言葉をかけて身体を撫でてやったりして(そして乳牛がとっても懐いてしまって、後々怪しまれる原因にすらなる!)
そういう行動がすごく、類型的な言い方を敢えてするなら“女らしい優しさ”に溢れていて、クッキーを見守りたい、幸せになってほしい、辛い目にあって欲しくないって気持ちが止まらなくなりました
ドーナツ屋の片割れのもう一人、キングに対してクッキーは、おそらく恋愛感情込みの深い友愛を抱いている(けどそれを気取られないようにしている)ように見えますし
キングが土地の小金持ちを揶揄する時に

「あんな奴、女みたいな奴だ おれたち男は道を切り拓くしかない」

と、いう言い回しをするのですが、クッキーはそれに同調も否定もしない、何とも曖昧な表情のままでいるのです
その顔が、キングへの様々な感情や自身の本音を押し殺しているように見えてしまいました

2人が最後、どういう運命を辿るのかは冒頭ではっきり示されているために
ああ、ここなんだ 二人はここまでなんだ、という箇所は決して覆らないと分かってしまう、そんな結末だったのですが
でも良かった、きっと二人は幸せだったと確信しています

ところで、この西部開拓時代の教養が無いものですから、登場人物の喋ってる内容が良く分からない箇所がちょいちょいありました
酒場の開拓人夫たちの会話とか、小金持の仲買人の社交の場の冗談とかです
それらがもっと分かれば、くみ取れる物語があるんだろうなあと、残念でした まだまだ勉強が足りない
たけうち

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