蛇らい

リチャード・ジュエルの蛇らいのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
3.5
序盤から事件が起きるまでのあの短い尺でスマートに、かつユーモアも忘れず主人公の人間性を説明する達者な語り口は流石としか言いようがない。

机の中の不足した備品を足しておくこと、ゴミ箱に捨てられているお菓子の銘柄、内向的な性格、仕事に対する責任感、さまざまな事柄を観客に的確に植え付け、事件現場でのリチャード・ジュエルまで人物像のタスキをつないでゆく。やることをやったらあとは言いたいこと言わせてもらいますよと派手にかますスタイル。気持ちがいい。

『THE GUILTY/ギルティ』を観たときにも似たようなことを思ったが、仕事における責任の所在と境界線をどこに設けるのかという問題についてこれまた考えさせられる。警備と言っても自分以外を守るために自分の身の安全を犠牲にする義務はない。しかし、彼のような少しの私情がたくさんの命を救う場合もある。

良かれと思った正義が疑いに変わることで、責任感が簡単に放棄させることの危険性。その現象を生む部外者と野次馬。この危険な構造を示唆することはとても重要だと思う。夢の中で彼が爆弾に覆いかぶさる選択をすること、彼がFBIに言った留めのセリフ、淡々と返される徴収された家財、人権の否定、ラストの涙、メディアや我々自身が我々自身で危うい環境を作り出していることに気づかなくてはいけない。
蛇らい

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