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すばらしき世界のottamaのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.6
西川美和監督の最新作とあって、思いきり期待値をあげていったが、結果、悠々と期待を超えてすばらしき映画…

今、余韻を噛み締めています。

物語は、殺人を犯して服役していた受刑者の三上が出所するところから始まる。13年ぶりのシャバは様変わり。元ヤクザの三上、社会復帰はなかなかうまいこと進まなくて…というのが全体のあらすじ。


とにかく、三上のキャラクターが人間くさくていい味を出している。不条理が許せず、激昂しすぐに掴みかかるので、危なっかしくてしゃあない。何事にも一生懸命取り組もうという心意気はいい。情に熱くよく泣く。不器用ですぐに自分を大きく見せようと高圧的な態度に出るのに、家では結構几帳面に暮らしていて、ミシンをかけるときの丸めた背中がかわいい笑。

西川監督と役所広司の愛情がたっぷり吹き込まれた彼のキャラクターにすっかり魅了されてしまった。

一度外れたレールから普通に生きることはなかなか難しく、世の不条理をひしひしと感じさせるが、そこを救うのはやはり人間。人と人が重なり合いながら過ごす美しさを感じさせてくれる映画だった。

映画を観終わってスタバで一息ついていたときの、隣に座っていたお兄さん。耳にイヤホンをつけながらスマートに仕事をしている。

何やら初めましての人とオンラインミーティングを始めた。いやあ、すごい経歴っすね、コンセプトも軸がしっかりしていてすばらしい…と相手を気持ちよくさせる術がうまい。少しすると、ごめんなさい、ちょっと僕のパソコン、電源がゼロになりそうで…とそそくさとミーティングを終了。その後も変わらずPCで作業を続けながら、また違う相手と電話で話し始めた。

いやあ、〇〇さん、clubhouseで毎日発信してるのを見て、今までの人脈やブランドをフル活用しててスゴイなーって思ってましたよ。土曜ですか?僕、ヘッドハントのミーティングがあって無理なんすよー…

この超器用そうなオトコと三上のギャップが激しすぎて、輪をかけてやるせない気持ちになる。


三上のような人に出会った時、私は面倒だなと思ってすぐに目を背けていないだろうか。一面だけで判断して、レッテルを貼っていないだろうか。器用なだけの人に騙されてホイホイついて行ってないだろうか。

そんなことに思いを巡らせながら、コロナだけど今ものすごく人と、誰かと関わりたいなあと思わせてくれる映画だった。
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