Jeffrey

すばらしき世界のJeffreyのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
「すばらしき世界」

〜最初に一言、ここ最近見た邦画どころの話ではなく、ここ数十年見た邦画の中でダントツの傑作だった。そこまで期待していなかった分不意にやられた。これは参った。とんでもない傑作だった。マスクをダメにするほど涙を流した。不寛容と偽善の世界、非常に観客に考えさせる時間を与えた作品だ。間違いなく世界三大映画祭最高賞受賞の水準に達した日本映画だ〜

冒頭、旭川刑務所とあるー室。刑期を終えて出所する男。十三年前の殺人、裁判、妻と母の存在。若手TVディレクター、訳ありアパート、免許獲得、職探し、介護ヘルパー、チンピラとの決闘。今、不寛容と偽善が交差する…本作は是枝裕和と師弟関係にある西川美和監督による最新作との事で、劇場で鑑賞して来たが今年見た劇場作品ダントツ、と言うよりか二十一世紀に入って五本の指に入る日本映画だった。最高傑作。もうびっくりした。原案「復讐するは我にあり」で直木賞を受賞した佐木隆三の小説"身分帳"で、主演の役所広司がめった刺し殺人犯を見事に演じている。西川と言えば「ゆれる」が傑作だと思うのだが、新たな傑作を創り上げただろう。最早西川映画の傑作は?と問われたら大抵の人は本作の名前を挙げるだろう。前作の「永い言い訳」から長かったな…。時期的に最も早いのはベルリン国際映画祭だが、もし武漢肺炎の影響などで中止にならない限り、五月のカンヌ国際映画祭で出品するならば、最高賞を受賞できる水準に達してる作品だと思われる。もし、カンヌでパルム手に入れたら「ピアノ・レッスン」のJ・カンピオン以来の女性監督受賞の大快挙よ。いゃ〜楽しみやね。後は審査委員長にかかるが、すべては運命に委ねられるだろう。それほどまでに傑作だった。こんな邦画に出逢ったのは久方ぶりだわ。


さて、物語は人生の大半を獄中で暮らした男が出所後に戻った社会で必死に生きる。十三年の刑期を終えて出所した元殺人犯・三上正夫は彼にすり寄る若手テレビディレクター・津乃田とやり手テレビプロデューサーの吉澤の運命に関わり始める。彼は提供されたボロアパートに住み、職を見つけようとする。車の免許を手にして、近所のスーパーで買い物をして、規則正しい生活を送る中、チンピラ二人に絡まれている中年のおじさんを暴力と言う解決手段で助ける。それをカメラに収めるテレビ関係者。やっとの思いで介護ヘルパーの職に就くことになる。彼はそこの施設で、知恵遅れの障害を持つ青年と出会う。しかし彼は裏で健常者の介護ヘルパー男性二人にいじめられる。それを目撃する三上。しかし彼がここで血の気の振る舞いをすれば、自分にしっぺ返しが来る。見て見ぬふりをする。そして施設の中ではさらに障害者の男性についての揶揄するジェスチャーが行われ、怒りをぐっとこらえる三上。やがて嵐が来る前にコスモスを積んだ障害ヘルパーの青年と鉢合わせする。彼の目には…。

やがて、三上の母親探しを懸命に手伝っていた若手テレビディレクターの青年が血相変えて走っている。彼が向かう先は三上のアパートである。カメラはゆっくりと空をパンする…と簡単に説明するとこんな感じで、一言で言うとここ最近の日本映画のダントツの傑作であった。にしても、脚本も務めた西川の才能には驚かされる。海を越えて大絶賛される脚本であった。それと私個人大ファンである梶芽衣子の今の姿が見れて非常に良かった。三上を演じた役所広司の芝居も圧倒的であった。三上の周囲がどんどん彼に惹きつけられる感じと、三上をいい人に作り上げていないところもよかった。いゃ〜、超傑作過ぎた。まさか、泣くとは…。マスクの変えないし、濡れたり、鼻水で汚したくなかったから、堪えようとしたけど無理だった。数十年前の過去の物語を現代に置き換えた非常に素晴らしい映画だった。

邦画は「カメラを止めるな」ぶりに劇場で観るくらい邦画に金かけて観る事をしない私が、今回映画好きな方に誘われて観に行ったが文句なしに素晴らしい作品だった。不寛容と偽善を巧く交えた本作は今年観た映画断トツだけでは無く、二十一紀に入っての頗る傑作だった。いゃ〜参った。ほんとビックリ。「夢売るふたり」「永い言い訳」が個人的に微妙だった為、期待はそこまでだったが大いに裏切られた。まず、冒頭の旭川刑務所のシークエンスから静かに始まる序盤からやられた。三上が刑務官に対して半ば怒鳴り声で対抗(本音)を言う下りの場面の緊張感があると思いきや、次に真っ裸になり、素直に言う事を聞き、出所する。どんよりとした暗い雲空をフレームインし、三上が外へと出てバスに乗る。そして独り言…。そこからカットが変わる。

そこから複数の三上と絡む人々のエピソードが始まる。プロデュース、スーパー店長、福祉の人、庄司夫妻、昔のヤクザ知人…などなど。そして、重苦しい題材の中にユーモアもあり、全体的にバランスの取れた作品だ。車の免許の更新をしていなかったため、再度最初から受けなくてはならない羽目になり、教習所に通うのだが、刑務所住まいが長いため、規律的行動で何もかも接しるためそこが非常に笑ってしまう。例えば運転する際に、後部座席に全くもって知らないペアの男性が座るのだが、彼が後ろでニヤニヤと笑っているのだ。主人公の男が危険な運転をしたり、しかも隣に座っている教官も表情が笑っているのだ。その他にも笑えるシーンはいくつもあったが見てからのお楽しみと言うことで言及は少しばかり避ける。逆に、感動的なシーンも多くあり、母親を探しに施設に行く場面で、小学生たちとグラウンドでサッカーをやる際に、過去を思い出し慟哭し、地面に倒れこみ泣く三上、その後に温泉で背中を若手TVディレクターが洗い流しましょうかと言い、傷だらけの背中を見つつ、目頭を熱くディレクターがゴシゴシ腰背を洗う場面も非常にウルんとくる。

そしていよいよ、介護ヘルパーと言う職にありつけた三上がそこで知能遅れの障害を持った若き介護ヘルパーを健常者のヘルパー二人の男性が裏でいじめているのを発見するのだが、ここで彼がその二人をボコボコにする想像シーンが入り込むのだが、ここでの緊張感と頼むから暴力をしないでくれと言う思いが切実に自分の中に流れ込み、すごく力が入ってしまう場面であった。その後にも介護施設の休憩所のところで、二人が障害者を揶揄するようなものまねをして馬鹿にするのをこらえて見ている三上が再度想像する場面もかなりきつかった。その後に嵐が来る前にコスモスを積んできたその障害者のヘルパーの一切汚れなき優しい心に感動して目に涙を浮かべる役所広司演じる三上の姿に涙なしには見れなかった。最も感動的なシークエンスであった。その前に知能遅れのヘルパーが、花壇で三上にやり方を教えている際に、幼虫を見つけて喜んでいる彼を見ながら微笑ましい眼差しを見せ、彼が鼻水を垂らしているのを素手で拭いとってあげる姿も非常に印象的である。

そして、白竜演じるヤクザが警察に捕まり、それを助けに行こうとする三上を止める女将が必死にこの人生不意にしちゃダメ、みんなシャバはきついけど、空は広いと言うセリフにも非常に感動を覚える(正確なセリフではないと思うが、そのようなニュアンス)。そしていよいよクライマックス、〇〇を聞きつけた若手テレビディレクターの男(仲野太賀演じる)が血相変えて走って、その結末にたどり着くまでの芝居も非常に良かったし、長澤まさみ演じるプロデューサーの腹黒さもとても良かった。そして介護ヘルパーの仕事を見つけて、しゃぶをしているように気持ちいと三上が勢いよく走っているシーンは素晴らしく感動的で素晴らしく面白く描写されている。正に"素晴らしき世界"である。今のところシカゴ国際映画祭で観客賞と主演男優賞のダブル受賞しているようだが、この作品は間違いなく各国の映画祭で賞を総なめできるほどの水準を保っている。ここまで終始、祈るように映画を見たのは久方ぶりである。本当に繰り返し同じような単語を使って申し訳ないが、驚いている。私が見に行った日比谷のTOHOシネマズの劇場はほぼ九割型満席状態で、四方八方からすすり泣きが聞こえた。非常に良かった。とても良い日になった。今日は素晴らしい日になった。この作品はぜひともお勧めする。本当に素晴らしい映画だった。ブルーレイが発売したら確実に買うことが決まった。そして多くの人に進めることを決意した。
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