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すばらしき世界の82sakuのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

この映画で描かれた世界と、自分が生きるこの世界は繋がっている。苦しい。悲しい。

エンドロールを見ながら、
泣けて仕方がなかった。
かわいそう。
かわいそう。
かわいそう。
ひどい。

誰にとって、
どの瞬間が、
何が素晴らしき世界なのか分からなかった。
彼があまりにもかわいそうだった。

夕食の匂いと飾らない気遣いで泣いてしまう彼を見て、涙が出た。

母を探す手掛かりはもう無いのだと知り、子供達に縋り泣き崩れる彼を見て、涙が出た。

同僚の鼻を拭う彼を見て、涙が出た。

彼は自分の感情を言葉にしなかったから、どんな気持ちだったかは分からない。
想像するほかない。
でも、ずっと寂しさが根底にあるのだろうと感じた。

嵐の雨に打たれながら、コスモスを手に何を思っただろうか。
見て見ぬふりをしてごめん、だろうか。
綺麗な花だな、だろうか。
妻と娘に会いたかった、だろうか。
この素晴らしき世界と別れられて清々する、だろうか。

エンドロールの最中、私が泣いている隣で、若い男女のカップルがヒソヒソと話をしていた。
「いやぁ絶対殴らないと思ったね、おれ。」「え〜何で分かったの?」
クスクスと笑い、劇場が明るくなるまで、ずっと話をしていた。

知的障害のある若者をいたぶっていた福祉施設の職員と、このカップルの無神経さがたぶる。
人の痛みを、自分の痛みとして感じ取れない人達。私はこのカップルに対して嫌悪感を抱いた。

素晴らしき世界とはどういうものだろうか。
優しい世界が良い。
誰にとっても。
せめて、自分が見える範囲だけでも、優しくし合える世界が良い。
私は常日頃から、それを言葉や行動で伝えるのが難しいと思っている。
だから、フィクションが人の心を打ってくれればとても有難いと願っている。でも、隣のカップルの心には響いてなさそうだ。
この映画の説得力を持ってしてもだめなのか。
せめてエンドロールの間だけは、映画を受け止め、自分なりに思い返す事もできないのか。

社会のレールから外れた人、そこから抜け出ることが困難な人を見てもなお、鈍感でいられる人達がいる事が虚しい。
相手がヤクザだから、寄り添う価値がないのだろうか。
私は考え過ぎだろうか。
ただの映画だろう、そう言われて終わりか。
そもそも、このカップルに腹を立てる自分が変なのだろうか。
カップルだって、後でしみじみと思い返すかも知れない。夜、湯船に浸かりながら、いくつかの場面や、台詞を改めて心に浮かべたりするかも知れない。
そもそも、映画の趣味が違うだけで、隣に座った知らない成人男性に勝手に嫌悪感を抱かれるカップルの方が、いい迷惑だろう。

私は相手の事を知りもしないくせに、腹を立てたり、幻滅したり、諦めたりしている。
そういうのは、すごく疲れる。
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