yap

弥生、三月-君を愛した30年-のyapのレビュー・感想・評価

3.0
物語の立ち上がりはもはや国宝の領域。
乗り遅れたバスを全速力で追いかける女子高生。
「待って!」ではなく、「待てー!」と叫び、
乗車後に(いろいろあって)同乗する成田凌をビンタ。
学校では薬害エイズでいじめられている級友のために、大演説。
気持ちいいくらいの信念の女性である。
一方、成田凌はお調子者だが、性格はよい男。
彼女の態度へのリアクションだけでもキャラクターは語ることができるのだ。

本作は、日本版「あと1センチの恋」というべき作品。
日本らしいウェットな味付けが過剰かもしれないし、
後半の奇跡出血大サービス感はいなめない部分がある。
3.11をエンタメの物語に組み込むにもまだ心理的抵抗もある。
しかし、古本屋での再会のシーンはちょっと笑っちゃうくらい天才的だし、
ウォークマンのシーンは鉄板。
何一つ昔の頃に思い描いていた夢をかなえ切れていない。
でも、生きていくことができる。
彼女が叶えられなかった「老い」を経験することができる。
杉咲花の特徴ある声がまたよいのだ。
バスのシーンがあまりにも多く、
最後のエンドロールはもはや監督のサービス精神の現れだとプラスに解釈した。
ほら、インド映画だって最後は歌うんだから。
そして、エンドロール後にダメ出しの奇跡。
私はもうこう思いました。
せめて映画くらい奇跡が連発しても許されるんじゃないかという
監督のこの世への憂いを。

次の監督作も楽しみになりましたし、
主演二人の演技はやはり素晴らしいと実感した作品でした。
yap

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