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花束みたいな恋をしたのpenのネタバレレビュー・内容・結末

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

何となく開けた引き出しの中に入っていた日記を最初から読み返し始めた。そんな風に感じる映画だった。後でパンフを読んだら、脚本の坂元氏も一度書いたものを捨てて、主人公二人の日記を書いてそれを基に脚本にしたとインタビューで言っていた。まるで舞台の両端に座った2人がその日記を朗読するように進んでいく印象を受けた。

二人とも呼吸してご飯を食べて酒を飲み寝る。そのサイクルの中に、好きなものに没頭することが組み込まれている感じがする。趣味として何か特別なもの、高級なものとは傍から見ると感じない。生活の一部として息づいていて、自然と口から出ているような雰囲気があった。それは脚本の作りだけでなく、菅田将暉や有村架純の演技に依るところも大きいのだろう。大きな世界の中で日々を等身大に生きている人達としての存在を実感させた。
だからこそ、2人が就活の後、仕事で悩み、すれ違っていく姿が哀しい。社会が考える「普通」は、2人にとっての「普通」を考えさせる余裕を与えてはくれない。

数年前にやった会話を関係が変化してからまたやる反復の手法が度々使われるが(今村夏子のピクニックのくだり、就活後の電話など)、それが最後のファミレスでの会話に活きてくるのが凄まじい。嫌いだった「じゃあ…」にも連なる会話のなぁなぁな決着を迎えそうな瞬間に現れる、新しい2人。もう自分たちでは出来ないあの頃のようなやり取りを、見知らぬ若い二人がする。有無を言わせぬほどの終わりとして描かれるその瞬間が、まるで現在と過去が同居するものとして描かれ、とても哀しく、同時に素晴らしかった。
そういえば二人の関係の変化にはいつも誰かの死(言葉通りのもの、社会的なもの)があった気がする。これもまた坂元氏の脚本の要素として印象的だった。

最初から終わりが提示されるけれども、映画はとても爽やかなものを感じた。泣きながら笑えるといった感触だろうか。ありがとうとさようならが、表裏で一体になっている感じがする。
運命の恋、運命の人というのは、イコールではなく、2つに別れているものなのかもしれない。

押井守監督が二人の恋のきっかけになるの、ちょっと考えられないくらいに奇跡では。
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