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ミッドナイトスワンのYHのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
1.7
1. LGBTに家族愛、それに悲劇的な結末まで。
特に今の世の中じゃ安易に自分の意見を出せない素材だらけの映画なんて監督ずるいな。と思った。
少しでも都合の悪い発言をする人は「フォビア」にしてしまえばいいから。絶対に負けられない戦いじゃん。と。

2. 個人的には社会的に敏感な素材を「活用」してなにかを作る際には、それに対するスタンスを確実に決めて、貫くべきだと思う。軽めなタッチで明るく扱うか、真摯な姿勢で扱うか、それとも認めないスタンスとかなんでもいいから演出する人の価値観と信念を貫くべきだと。勿論それに伴う評価や批判は自己責任で。
それが何かを「創る」ということだから。
そういう面から見てもこの映画の演出は卑怯だとしか思えない。

3. ストーリー自体も陳腐で全て予想通りに展開されてて、折角のいい演技を潰している。
この映画で最も残念なのは他でもない監督、そして演出だと思った。
必要のないサイドストーリーは多いし、しかもそのサイドストーリーたちは使い捨てのエピソード以上の意味を持たない。
りんも、みずきも、バーの仲間もそれぞれストーリーは持っているけど、主人公の悲惨な状況を見せるための道具でしかない。
そのせいで脇役たちのいい演技が台無しになるし、主人公の置かれた悲劇的な状況が凄く薄っぺらく感じられる。いや、作為的に主人公に試練を与えて安っぽい同情を乞おうとするような演出にしか見えない。
何より人の悲惨な姿を誇張して観客の涙を誘導しようとする監督の浅はかな計算と、人に対する礼儀のなさが不快だった。

4. 草彅剛という「人」は個人的に好きだが、正直なところ今まで「演技が上手い」と思ったことはあまりない。仕草や感情を伝える部分では強みを持っていると思うが、セリフの伝達の面ですごく弱いから。
この作品でもそのような草彅剛の弱点が顕著に感じられた。広島弁のところや女口調で話をする際、凄く棒読みに聴こえるところが多かったと思う。

5. ここまで散々酷い評価を書いたので、よかったところを。

まず、草彅剛の演技について。
セリフの伝達面では上記のように弱点を見せたけど、彼は今の日本映画界で数少ない「目で演じることができる役者」の一人だと思う。
この作品でも彼の目は始終「母親の目」だった。彼が役に入った証拠だろう。
個人的には草彅剛は「社会の落ちこぼれ」の役をする時輝く俳優だと思う。どこか悲しみの沁みた目をしているからか、それとも彼自身が寂しいからか…

あと、二人の主人公の結末が対照的に分かれるところも話的に良かったと思う。脚本家が狙ってああいう結末にしたかどうかはわからないけど、劇中に出る、またタイトルのモチーフにもなったバレエ作品、「白鳥の湖」の結末もバージョンによって喜劇だったり悲劇だったりするから。
特にエンドロール後の二人の対比は白鳥を夢見たけど結局本物の白鳥にはなれなかった、真夜中に舞う白鳥(ミッドナイトスワン)と呪いか解けて白鳥の姿から解放されたオデットのそれそのものだった。

主役ではないけど水沢ありさの演技も良かった。
この前愛妻物語を見たばかりで、なんか最近は彼女の怒っている姿しか見てない気もするが。

最後に主役の服部樹咲について。
新人だと聞いたが、これからどう成長するかによっては凄く化けるポテンシャルを感じた。
演技がすごく上手い訳では無いけど(経験がないからこれは当然)、演技は学んで努力すれば伸びるもの。彼女は努力でも手に入らない武器を持っている。
顔だけ見れば本当に子供に見えるが、全体的なシルエットは大人。また化粧次第では成人を演じることもできる。
そういった「なににでもなれる」ということは演者としてはすごい武器になり得る長所だと思う。

6. 結論を言えば
色々残念なところが多かった作品だった。
監督を変えて、シナリオをもう少し擦りなおしたら本当にいい作品になる可能性は持っている作品だと思う。
もう少しまともな演出で見たかった。というのが正直な感想かな。
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