あ

ミッドナイトスワンのあのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.4

このレビューはネタバレを含みます

内容は全体的におもしろかった。ただ展開に無理があるというか、ペースが早いなと少し感じてしまったし、設定をもっと徹底して欲しかった部分や、これは必要なのかと疑問に思う部分は少しあった。

子ども嫌いのなぎさだが、いちかと過ごしていく中で母性を自分の中に見出していく。LGBTQが“流行り”とまるでエンターテイメントかのように扱う人間、それを良心からフォローしようとするも腫れ物みたいな扱いをしてしまい無意識下での偏見が隠しきれていない人間、「おかま」は「おかま」であってそれ以上にはなれないといったニュアンスの言葉を発する人間等、皆それぞれ悪気は無く、しかしながら確実になぎさを傷つけていた。そんな中で、バレエの先生が当たり前のように自然に口にした「お母さん」という言葉に、なぎさはどれだけ救われたのだろうか。その時のなぎさの笑顔は幸せそのものだった。

ホルモン注射等も相まって情緒が乱れている様子は見ていて苦しかったし、「どうして私だけ」と泣きながら呟く姿を見て、人はそれぞれ違う形で大小問わず日々もがき苦しんでいること、また取り残さずに人の苦しみを理解すること、自分の苦しみを理解してもらうことは不可能だと改めて感じた。なぎさのこの姿を間近で見た思春期のいちかは、そこで何を感じたのか。それをどう感受して自分を形成していくのかが不安だったり、期待したりもした。この時期の人間は繊細であるので沢山の意味を含めて恐ろしさを感じざるを得なかった。
ただ、いちかにはしがみつくものがしっかりあるのが救いだ。そういうものが有る人間と無い人間には雲泥の差が生まれる。いちかはバレエというものをしっかり自分で見つけ出して、不器用ながらも行動してそれを獲得した。正真正銘強く、逞しく才能のある人間だと感じた。

いちかにはバレエが必要だということを理解し、自分の犠牲を払う覚悟を決め、踊るのよ、と言ったなぎさは本当に格好良かった。いちかの中になぎさは自分を投影したり託したりしながら、不恰好ながらもそこには確実に愛情があり、母親がいた。

いちかはなぎさのことを一度でも母親のように感じたのかどうか。明確な描写は無いので分からずじまいではあるが、そうであったと信じたい。
あ