安藤エヌ

ミッドナイトスワンの安藤エヌのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
3.7
予告編を観て、普段はあまり映画館に行きたがらない母が「これは観に行きたい」と言ったので並んで鑑賞。

埋まらないものがある者同士が世界の片隅で抱き合いながら生きるといったストーリーが好きな私にとって、最後までぶれずに愛おしいと思える物語だった。
トランスジェンダーの人物を扱った映画として、今まで観た中で印象に残っているのはエディ・レッドメイン主演の『リリーのすべて』だが、この作品が連れ添った夫婦の間に在る愛なのだとしたら、『ミッドナイトスワン』は親になりたかった女性がたった一人の少女に捧げた無償の愛だろう。ほかには何も無い、切な愛がただ胸を打ち続ける。なぜ自分だけが、と孤独な苦しみを抱き続け生きた凪沙が、最後に見つけられた希望の光が一果で良かった、と心から思う。海辺のシーンでの、号泣でも慟哭でもない凪沙の静かな涙が印象深かった。
ショーで舞う凪沙、バレエの道に進むことを決めた一果。どちらともが「真夜中に産まれ、朝には白鳥に戻ってしまう踊り手」であり、タイトルはそんな彼女たちを意味しているのだろう、凪沙がヘッドドレスを一果に付けて「あげる」と言うシーンや、エンドロールの最後に寄り添い合うふたりの姿とタイトルバックにも胸打たれた。

刹那的な一瞬が美しく、悲しく、人が抱く闇の片鱗を多く覗かせ、それでも唯一ともいえる光の差した物語に深く感じ入った2時間だった。
安藤エヌ

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